明日への扉-3
デパートを後にした真希が学校に現れたのは、4時限目の前だった。校門を過ぎて下足箱で上履きに履き替えた瞬間、彼女はいつもの〈相沢真希〉になる。
「アッ、マキ。どうしたの?」
教室の入口に現れた真希を見つけたクラスメイトは、一様に心配気な声を掛ける。が、彼女には素直に受けとれない。
「うん、ちょっと体調が悪くてさ……」
真希は作り笑顔で答える。
すると、クラスメイト達は〈そう〉とだけ言って、真希から視線を外した。
真希は、ため息混じりに自分の席へと歩み寄る。
「オマエ、またサボったのか?」
そう声を掛けたのは、隣席の古河義之だ。真ん中から分けたナチュラルヘアーに、整った顔。フレームレスのメガネは知的な印象を受ける。事実、成績も良い。
真希は再び笑顔を作る。
「ちょっと具合悪くて……」
言い訳じみた真希の言葉を、義之は鼻で笑う。
「ハッ!そんなに血色良いのに具合が悪いだって?気持ちが負けてるだけだろ」
義之に心境をズバリ言い当てられ、思わず顔が引きつる真希。口には出さないが、彼のズケズケとした物言いを真希は心底嫌っていた。
「…違うよ。本当に具合悪くて」
そう言いながら、席に着くと授業の準備を始める。
「相沢。オマエ学校辞めたいのか?」
義之の言葉に、真希は苦笑いを浮かべて、
「ど、どうしてちょっと遅れたぐらいで……」
「オマエ入学してから何回遅れた?10や15じゃ利かないだろう。
そんなんじゃ授業に付いてけないぞ」
「………」
真希は何も言えなくなり、俯いてしまった。義之は続けようとしたが、そんな彼女を見ると言えなくなり言葉を呑み込んだ。
4時限目の本鈴が、校舎に鳴り響いた。
ー昼休みー
グループの輪に入り、食事を摂る真希。彼女にとって、苦痛を感じる時間。
グループの中心に居るのは律子だ。勝気で明るく、ものおじしない性格は、性別を問わずに人気がある。
真希にとって憧れであり、同時に疎ましい存在。このクラスで自分の居場所を作るため、真希は律子を真似る。
様々な話題に相づちを打ち、笑顔を振りまく真希。
ふと、視界に入ったのは義之。彼は自分の席で、1人弁当を展げて食べている。
見慣れてるハズの光景。
だが、真希はふと、義之と豆柴のミルがダブって見えた。
昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り渡る。真希が席に戻ると、義之は本に視線を落としている。
何故、そんな事を思ったのか分からない。気づけば義之に近寄っていた。