明日への扉-14
すると、目の前に現れたのは、白い豆柴だった。ぴょんぴょんと足に飛び掛かる。
真希は怯えからすぐに気づかなかったが、
「ミル?…ミルなの!」
真希はしゃがみ込むと、豆柴を抱きしめる。豆柴の目は、嬉しさから涙で潤んでいた。
「おーい!何処行ったんだ?」
真希が声のした方を見つめる。茂みの向こうから現れたのは義之だった。
「…ふ、古河…君…」
「よう…相沢……」
義之はバツの悪そうな顔で、真希に挨拶する。
「古河君が買ったの?ミル…この豆柴……」
真希の言葉に義之は照れた表情で、
「ソイツのおかげでコツコツ貯めた金がキレイに無くなっちまった。
実は…昨日、遅れた時に電車でオマエを見掛けてな。つい、後をつけたんだ。
ウチも番犬が欲しかったから…ついな……」
「そう……」
真希は豆柴の頭を撫でながら、この上無い優し気な表情を浮かべる。
「ねぇ、これなんて名前?」
キラキラと輝く笑顔を義之に向ける真希。その表情に義之は鼓動を高鳴らせて、
「昨日飼ったばかりで決めて無いんだ。相沢。何か良い名前ないか?」
そう訊かれた真希は迷わず答える。
「ミルは?ミルクのように白いから」
「ミルか……良い名だ。それにしよう」
義之は満足した様子で真希に頷いた。そして、視線を彼女から逸らすと、
「…あの、ついでにソイツ…ミルの散歩をする時、付き合ってくれないか?」
義之は顔を赤く染めて言った。言われた真希も頬を染めて、
「…良いよ。私にも…本の事教えてよ」
真希の言葉に、義之は満面の笑みを浮かべて、
「もちろん!本なら沢山あるからな」
ミルを真ん中に2人は公園を歩いて行く。真希にとって、これまでのイヤな事が、すべて消え失せたようにスガスガしい気分だった。
…「明日への扉」完…