明日への扉-12
「アンタ……やっぱり断ろうか?」
おそるおそる訊く佳子。しかし真希は、そんな母親の申し出に微笑みながら、
「…大丈夫……」
そう言って電話のあるリビングに歩いて行った。
真希は受話器を取って大きく息をすると、保留ボタンを解除した。
「…もしもし……」
力無い真希の声。しかし、受話器の向こうから聞こえた律子の声は、嗚咽混じりだった。
「…真希…私のせいなの?…」
(エッ?)
律子の言葉の意味が理解出来ない真希。黙っていると、律子はさらに、
「ねえ、答えてよ!…き…今日、帰っちゃったの…私のせいなの?」
先ほどより強く律子は嗚咽を漏らす。逆に真希は冷静に彼女が何故、そんなに追い詰められているのか訊いた。
「どうしてそんな事訊くの?律子」
「…だって…あの前の日…私、色々言ったから…それで…」
律子は言いたい事を吐き出して、少し落ち着いたようで、
「私…アナタが怖かったの……」
意外な言葉に絶句する真希。
「私も含めてだけど…皆、自分の居場所を求めて自分を偽ってるの。でもね。本当はつまんないの。だから、いつも自然体でいるアナタが怖かった……」
律子の本心を初めて聞いた真希。
(自分だけじゃなかったんだ。皆んな苦しいんだ)
震える唇で答える。
「…今日は気分が悪くなっただけ……げ、月曜日には普通に登校するから。気にしないで」
それを聞いて安心したのか〈じゃあ月曜日会おうね〉と言うと電話は切れた。
その瞬間、真希は電話口にへたり込むと両手で顔を被って泣いた。
リビングで一部始終を聞いていた母、佳子はもらい泣きをし、父、幸助は微笑んでいた。
ー翌朝ー
「いってきま〜す!」
「あんまり遅くならないのよ」
「は〜い!」
翌朝土曜日。真希は朝から出かけた。昨日のふさぎようが嘘のように、ハツラツとした笑顔で駅へと向かう。
電車に乗り込む。気持ちは4つ先の駅のデパートにいるミルの事でいっぱいだ。
電車に揺られて20分。高架駅を降りる。目の前に通じるデパートまでの高架道。真希は嬉しさから駆けて行く。息を切らせて。