明日への扉-11
同じ時刻。義之はひとり屋上にいた。一昨日、真希と共にした時と違い肌寒く感じる。だが、教室に居たくなかった。
(…上手くいかねぇなあ……)
真希の根底に有る心境を、義之は理解してるつもりでいた。似たようなの過去を持つ彼は、何とか立ち直らせたいと思っていた。
しかし、今日の出来事が引き金となり、彼女の中にうっ積していたモノが一気に吐き出されてしまったのだ。
「…何をやってんだ。オレは…」
義之は悔んだ。
制服の内ポケットから携帯を取り出し、メール画面に操作する義之。しばらく画面を見つめていたが、
(ガラじゃねぇ……)
そう呟くと、再び内ポケットにしまって弁当を食べ始めた。
ー夕方ー
泣き疲れて眠っていた真希は目を覚ます。部屋はすでに暗くなっていた。
枕元のナイトランプをつけると、途中まで読んでいた〈銀河鉄〇の夜〉が目についた。
昨日の続きを読み始める真希。
カムパネ〇ラと共に〈鳥を穫る人〉や〈沈没船に乗っていた姉弟〉など様々な人達と出会うジョバ〇ニ。
やがて、この銀河鉄道は死にゆく人々を乗せていると理解する。
そしてカムパネ〇ラに〈僕達、何処までも一緒だよ〉と告げるが、カムパネ〇ラは悲しい顔をしてジョバ〇ニを退ける。
やがて夢を見ていたように目を覚ますジョバ〇ニだが、カムパネ〇ラが身を呈して友達を救い、自身は川で溺れたと聞かされる。
涙を流し、嗚咽を漏らす真希。
だが、昨日までのジョバ〇ニに傾注した悲しみの涙と違い、カムパネ〇ラを通して訴えかける作者、宮沢〇治の慈愛に満ちた考え方に共感してのモノだった。
その時だ。
「真希。真希電話よ」
佳子の声がドアーの向こうから聞こえた。
「…誰?…から」
涙声のまま訊く真希。その相手は以外な人間からだった。
「クラスメイトの豊田律子って」
(…エッ…?)
真希にとって、1番考えられない人物。
「…どうする?断ろうか」
佳子の言葉に、真希はしばらく躊躇していたが、ベッドから這い出るとドアーを開けた。
真希を見た佳子は息を呑んだ。
その頬は涙の跡が残り、目は腫れていたのだ。