明日への扉-10
「…やっぱり私なんか要らないのよ……」
「エッ?」
次の瞬間、真希は席を蹴って教室を後にした。
「アイザワッ!!」
義之も遅れて席を立つと、真希を追って教室を飛び出すと廊下を走って行く。
「相沢!待てよ!」
廊下を抜けて階段を降りようとした時、
「古河!もう授業は始まってるぞ」
呼び止めたのは、担任であり現国の先生だった。
「それが!…」
義之はそこまで言って口をつぐんだ。さすがに担任にバラすのは、まずいと思ったのだろう。
「どうかしたのか?」
義之の言動を不審に思った担任は、彼に訊いた。が、義之は〈何でもありません〉と言うと、教室へと戻って行った。
ー昼ー
真希の母親、佳子はテレビを眺めながら余り物でお昼を摂っていた。すると、ガチャリと扉を開ける音がした。
彼女は慌てて音のした玄関に向かうと、ちょうど真希が靴を脱いで上がるところだった。
「どうしたの?やけに早いじゃない」
真希はチラリと佳子を見たが、返事もしないでスタスタと自室に入ってしまった。
佳子は慌てて真希の後を追うと、
「真希。どうしたの?具合でも悪いの」
部屋のドアーノブを廻すが、廻らない。カギが掛っている。
「ちょっと。ここを開けなさい!真希!聞こえてるんでしょう」
ドアー1枚を挟んで佳子は娘に言い続ける。しかし、真希の方からは何の反応も無かった。
佳子は根負けしたように、
「じゃあ、もう訳は聞かないから。お腹空いたら出て来るのよ」
そう言うと、その場から立ち去り、リビングに座り込んだ。ため息を吐くその顔は悲しみに満ちていた。
真希はベッドに潜り込むと、静かに涙を流した。
(…もうイヤダ…いつも自分をごまかして…嘘の自分を演じて……それでも必要とされない…)
自棄に陥った真希は、泣きながら〈全てを消し去りたい〉と考えていた。
*****