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あめんぼ
【悲恋 恋愛小説】

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あめんぼ-2

仏間に北枕で寝ている理沙の顔の白い布を彼女の母親がそっと取った。
白くなった理沙の顔が目に映る。
突然の事故で何も分からずに逝ったのだろうか。
彼女の顔は安らかで、体を重ねた後に俺の横で寝息を立てていた顔と一緒だった。
手が勝手に伸びた。
いつものように理沙の頭をそっと撫でる。
額が冷たい事以外はいつも通りで、やわらかい猫っ毛も、薄いこげ茶の色も。
いつもの通りに髪は乾かさずに寝ていたんだろうか、と、思う。
俺の家に来ても自分から髪を乾かす事はなくて、いつも俺が乾かしていた。
「ドライヤーの音とか熱とか、嫌いなの」
と言ってたのを思い出す。

「理沙、ごめんな。もっと一緒に居てやればよかったな」
口から言葉がこぼれた。

頭を撫でる手を止めてそのまま頬を撫でる。
すりすりと頬を寄せてくれた時はあんなに温かかったのに、今はとても冷たい。
もう開かない瞼も、2度と空気を吸い込まない鼻も、笑わない唇も。
すべて撫でた。
俺の目からは涙が流れて止まらない。
最後だからしっかり目に焼き付けないといけないのに、視界がどんどんぼやけた。
喪服の袖で拭っても、拭っても、それは止まらなかった。
理沙の頬にもう一度手をやった。
冷たい額に顔を近づけてキスをした。
それから頬にも同じようにキスをした。
周りに居る人のすすり泣きが大きくなる。
俺はゆっくりと、冷たい唇に、唇を重ねた。
童話のように理沙が目覚めたら良いと本気で願いながら。

通夜の帰り、駅からまっすぐ家に帰る気にもならなくて、喪服のままぶらぶらと歩いた。

足は理沙とよく歩いた散歩コースに向かっていた。
そこは人工の小川が流れ、両側には植物が群生している。
理沙はよく夜中にここへ散歩に来たがり、二人で、一時間ほど川面を見つめたりした。

一人で歩きながら川面を見つめる。
水面に雨があたったように、何度も、何度も、たくさん光った。
空は晴れているのに、それは本当に雨が降っているように見えた。

「ね、雨みたいに見えるけどあめんぼなんだね」

理沙はいつもそう言っていた。
そんな事を思い出して、俺は、また、涙を流した。



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