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多分、救いのない話。
【家族 その他小説】

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多分、救いのない話。-5--2

チャイムが鳴り、葉月先生が入ってきた。慈愛を特に気にする風でもなく、いつものように出席をとる姿に、慈愛は自分でも把握できない感情を抱いた。
 考える。自分の母親と、担任である葉月先生のことを。
 これは慈愛のカンでしかなかったが、母は葉月先生のことを快く思っていない。……気がする。家庭訪問から数日が経っていたが、葉月先生の話題が出ると、慈愛の大好きな母の笑顔が、少しだけ硬直するのだ。気のせいと言ってもいいぐらいの、微細な表情の変化。気のせいだと思いたい。少なくとも慈愛に対しての態度の変化は無い。だけど。
 根拠がカンだけしかないから答えは出せず、根拠がカンであるから論理的な否定が出来ない。悶々と、授業にも集中出来ないでいる内にあっという間に午前の授業は終わった。クラスメイト達と学食に行き、食券を買ったはいいがどうも食欲は沸かなかった。
「ふわぁ、ごめんね、保健室に行くー」
 クラスメイトに断りながら、席を立って保健室に向かう。むにゃむにゃと欠伸を噛み殺した。この時間になると何故か眠くなってくるのだ。この眠気を「ねむねむの妖精がやってくる」と表現しているのだが、母に言ったらお友達には言わないようにと言われたのでクラスメイトには言っていない。その場にひーくん、もとい火口さんもいたのだが、「そやな、それは絶対その方がええな」と寧ろ母よりも強い口調で念を押してきた。謎である。
 謎と言えば、母と火口さんの関係の方が慈愛にはよくわからないものだった。多分大人の関係なんだろうなとは思っているのだが、詳しく訊いた事は無い。けれど、十四歳でまだ男女の機微がわかっていない慈愛から見ても、なんとなく複雑そうな関係だった。火口さんは特に慈愛が思うところは無いのだが、やはり自分の存在が関係を複雑にしているのだろうか。だとしたら自分は、母の幸せを妨げているのかもしれな
「――……!!」
 頭をパン、と叩いた。母からもらったリボンが揺れる。
 痛みはない。しかし、思考を強制停止するには充分だった。
 保健室に着いた。いつものように笑顔で迎えてくれる、水瀬先生。だが、顔色がなんとなく悪かった。
「ありゃ。みーちゃん先生、顔色良くないですねぇ」
「うん、ちょっと風邪気味なの」
「もう保健の先生が風邪引いちゃ駄目ですよぉ」
 ミイラ取りがミイラになっちゃいましたねぇと続ける。会話をしているうちに、思考を強制停止したことすら忘れた。
 この保健室はそれぐらいには、居心地のいい場所なのだ。


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