冬空〜第五章〜-1
外は雨…
寒くなったら又雪に変わるだろう…
奥さんからの電話を切った後…
まともな私に還る為にとっておきのココアを入れる…
暖かさが心に染み込んでく
初めて言い返した事を後悔しながら過ぎてく時間だけが私を包む…
何ごともなかった様に静かに流れる時間だけが私を平常に戻してくれる…
奪うつもりで愛したんじゃない…
ただ愛しただけ…
通らない理屈を並べては出るのは溜め息だけ…
『買い物に行こう!』
わざと大きな声で言って家を出る…
スーパーの帰り路…
懐かしい姿を見つけた…
『久しぶり…』
きっと電話に出ない私に怒ってる筈なのに声を震わせながら彼が言った…
『 …… 』
私は手に持ってた買い物袋を落とした事さえも気付かなかった…
『卵入ってないか…?入ってたらきっと全滅だぞ…』落とした荷物を拾いながら彼がおどけて言う…
私は佇んだまま…まるで私の周りだけ時間が止まった様なそんな気分だった…
彼が私の手を握った時彼の手の冷たさに初めて一筋の涙が溢れた…
『きちんと話して欲しい…何で時間が必要なのか…じゃないと納得出来ないし心が壊れそうだから…』
私は静かに話し出す…
奥さんから電話があった事を…
彼の顔がみるみる変わってく…
『ごめんな…何も知らなかった…』
やっぱり奥さんは彼には何も告げてないらしい…
『俺が聞くのも変だけど…これからどうしたい…別れたいのか?』
『このまま別れたら貴方も私も前の生活に戻れるんだよ…』
そう言う私に…
『無理なんだ…お前と離れるのは…初めて抱いた時に覚悟はしたんだ…逃げたりしたくない…』
『子供は…?』
黙る彼…
しばらくして彼は…
『恨まれても仕方ない…』ただ一言だけ自分に言い聞かせる様に呟いた…
『無理だよ…どう考えたって無理だよ…』
私も自分に言い聞かせる様に呟いた…
『じゃぁ別れるのか…?』
答えられない私…
黙ったまま席を立つ…
『一年後…ここで待ってるから…きちんとけじめつけて待ってるから…』
そう叫ぶ彼の声を背中に聞きながら溢れ出す涙も拭かずに私は喫茶店を飛び出した…
あれから何日間か奥さんの電話が鳴ったが出ないので諦めたのか鳴らなくなった…
私は家を出て違う街で暮らし始めた…
ただ別れて下さいと繰り返す私に旦那は納得がいかないみたいで最後まで判は押してくれなかった…
子供達は何事もなかった様に新しい学校にも馴染んで母親しか居ない生活にも大分慣れたみたいだ…
これで良かったなんて事はきっと一生思わないだろう…
彼と私は出会わない方が良かったのだから…