『恋と真理の狭間で…』-1
時に思う、人はなぜ恋をするのだろうか・・・。
はたしてそれに意味などあるのだろうか・・・。
答えはNO。しょせん恋などロマンチストどものまやかしごとにすぎない、そこに意味などあるはずはない、と。
僕の名前は飯島孝則。
僕は確かに存在してた。正確に言うと僕と僕の存在を証明してくれる一人の女性がいた。
そう僕は一人の女性に恋をしてしまったのだ。まったくおかしな話である、恋愛に対してあれほど否定的だった僕が恋をするなんて。
彼女の名前は愛園美夏(あいぞのみか)
僕の隣には彼女がいる、夜空にはただ満月だけが輝いている。
初めて出会ったその日から僕は日に日に彼女にひかれていった。そして、僕らは恋に落ちた。お互いがお互いの存在を証明しあえる存在になったのだ。
しかし、そんな幸せもそう長くは続かなかったのである。
「ねぇ、早くぅ〜花火始まっちゃうよ。」
今日は美夏と一緒に夏祭りに来ている彼女は無邪気に微笑みながら僕の腕を引っ張っていく。
「ここで見よ。」
あたりは一面の芝生、周りはカップルだらけである。
『ヒューゥ、ドーン』
色とりどりの花火が夜空を色どる。
「きれいだね。」
「あぁ、きれいだな。」
この日の花火は本当にきれいだった。僕は彼女の横で花火を見ながら、彼女の瞳にうつる花火の美しさに心を奪われた。
僕の視線が瞳から唇へと移る。美夏と視線が重なる。そこに言葉はいらなかった。二人は口付けを交わす。ほんの一瞬の出来事が僕にはとても、とても長く感じた。
花火も終わりあたりは静寂に包まれている。時計の針は11時を指している。星はなくただ満月だけが夜空に輝いている。
「今日はありがとう、とっても楽しかったよ。」
「いや、俺の方こそ楽しかったよ。」
彼女は笑顔で返事をする。
「じゃあね、おやすみ。」
「あぁ、おやすみ。」
そう言うと彼女なごり惜しむ様に家路についた。ふと僕は唇に手をあてたそこにはまだ彼女の唇の感触がはっきりと残っていた。
この時、僕はこれから起こる悲しい出来事を知るよしもなかった。
翌朝。僕は絶望の淵に追いやらわれた。
・・・・・美夏が死んだ。
それはあまりにも突然の別れであった。昨晩、僕と別れた後ひき逃げにあったのだという。僕は現実を受け入れられなかった。当然である、ほんの数時間前まであんなにも笑っていたのだから・・・・・。
その翌日彼女の葬儀が行われた。僕は参列することなく一人部屋に閉じこもり途方にくれてた。生きる希望さえも失っていた。
その夜、僕は大粒の涙を流した。
時は流れ1年後。
僕は依然として一年前の悲劇を忘れることが出来なかった。
今年も昨年と同じ日、彼女の命日に去年となんら変わり無く夏祭りは行われた。
ただ一つ僕の隣に美夏がいないことを除いては。
僕は去年と同じ場所で花火の開始を待っていた。今夜は新月で星一つない、いや星が一つだけが夜空で輝いていた。
「飯島クン……。」
誰かに呼ばれた気がしてふと後ろを振り向く。
「気のせいか……。」
しかし、その時唇にはあの日の感触がにわかによみがえっていたのであった。
花火が終わる前に僕は会場をあとにした。やはり実像の花火など彼女の瞳に映った花火の美しさにくらべたらどうでもよかったのだ。
「また来年な。」
僕はそうつぶやくと一人家路についたのであった。
あらためて問う。
人はなぜ恋をするのだろうか・・・。
はたしてそれに意味などあるのだろうか・・・。
答えはわからない。
ただ、僕は以前よりちょっぴり大人になれた気がした。
FIN