その一粒の-1
「バレンタインデーが近いね」
真冬のある日の昼休み。
二人でお弁当を食べてから、まったりしていた時に発したアタシの言葉に、彼氏は目を細めた。
「ヴァン・アレン帯がどうかしたか?」
にやりと笑って、アタシにはよく解らない単語を云う。
またアタシをからかって遊んでいるらしい。
アタシの名前は高崎雫、高校生。友達にはシズって呼ばれてる。
同じクラスに居る彼氏の名前は熊埜御堂一哉。
くまのみどう、かずや、なんて読めない名前がきっかけでアタシは彼を好きになった。
ほんと、恋心なんてよく解らないよね。
「ナントカかんとかタイなんて知らないよ、クマノミ」
アタシは彼をクマノミって呼ぶ。片思いしてた時は付き合ったら名前で呼びたいと思ってたけど、付き合ってる今は恥ずかしくて呼べていない。
「ヴァン、アレン、帯。帯っておびって字だぞ」
憎たらしい事にクマノミは単語を切ってゆっくり云いやがった。
ヴァン・アレン帯ね。覚えましたよ、憎らしい。何の事かは解らないけどさ。
「それはもう良いっての。バレンタインデー!チョコの日!」
「悪かったよ、怒るなよ」
クマノミは笑いながら、アタシの肩を叩いた。
「バレンタインデーが近いから、チョコ作りを極める合宿でもしたいのか?」
「がっ…!」
合宿イコール、一緒に寝る。
一緒に寝るイコール―――アタシは目茶苦茶単純な発想をして、真っ赤になった。
いや、そういう事もしたいけど、まだそこまでじゃないし!
「お前、ど、動揺すんなよ」
そう云うクマノミも赤い顔になって動揺してる。
なんか落ち着いてて、高校生っぽくないとか思ってたけど、可愛いところもあるんだなあ。
「ニヤニヤしてんなよな」
「だってクマノミ可愛いもん」
なんだよ、何が可愛いんだと拗ねるクマノミをアタシは笑いながら見つめた。
うーん、イチャイチャしてるな、アタシ達。
「とにかくさ、初めてのバレンタインデーだし。頑張って作ろうかと思ってんの」
「そうか。頑張れよ」
何で上から目線よ。