その一粒の-4
付き合う中で、少しずつ教えて貰った。
クマノミが一人で散歩に連れて行った時だったこと。
友達と会って、犬を繋いで少し遊んじゃったこと。
その間に毒を食べさせられて―――クマノミはすぐに気付いてやれなかったこと。
聞いてて、アタシはいつも泣いてしまった。
クマノミが自分が間違ってた事をよく解ってるから、余計悲しかった。
だって人は、いつも正しくなんて出来ないもん。
ねぇクマノミ。アタシ、胸が痛いよ。
どうして、人が悲しむ事や痛い事が好きな人が居るのかな。
あんなふかふかした可愛い生き物を殺したいと思う人は、どんな冷たい世界で生きてるんだろう。
あったかいものを壊すのが嬉しいなんて、色々な理由はあるんだろうし、もしかしたら理由なんてないのかも知れないし、もうよく解んないけど―――。
凄く寂しい。
「うん。いっぱい遊ぶ」
アタシに出来る事なんて、ちっぽけだ。
死んでしまったワンちゃんが、今はのんびり出来てますようにって思う事と、今居る犬を大事にする事。
「そうだな」
そのくらいしか出来ないアタシは、ちっぽけだね。
*
気付いたら、世の中はバレンタインデー当日になっていた。
簡単よ、なんて云ってた筈のチョコ作りはスパルタ教育で、アタシはそりゃあもう大変だった。
翼子は恐ろしい。ショーリさん、大変だろうなあ。
友人の彼氏に同情しつつ、アタシはクマノミにチョコを渡した。
「ありがとう」
クマノミは笑って、素直にお礼を云ってくれた。
「クッキー練習しないといけないな」
「うん。あのね、生地を絞り出して、真ん中にチェリー乗っけたやつね」
「緑でも赤でも乗っけてやるよ」
クマノミはそう云ってアタシの頭をバフバフ叩いた。
きっと賢い女になるには、このくらいで幸せになってちゃ駄目なんだろうね。
でもね、クマノミ。
アタシはそりゃ可愛いアクセサリーも、服もバッグも欲しいけどさ、高い物が欲しい訳じゃないんだよ。
好きな物が欲しいんだ。
それはさ、好きな人の作ったクッキーだったりするの。
アタシは女の偏差値、きっと低いと思う。