Blackmail-8
本社のレセプション・ルーム。数十畳はあろう広い室内の中央に置かれた巨大なテーブルに、本社、グループ会社の役員など、約100名が集まって定例の経営会議が開かれていた。
各々が現在の経営状態と展望、そして今後の方針を報告していく。しかし、社長と共に出席している恭香は、うわの空だった。
(…あの映像…私の部屋にカメラが仕込まれている…でも誰が、いつ……)
「三上君」
となりに座る社長にせっつかれ、恭香の思考は遮られた。俯いていた顔を上げると、100人の視線が彼女に集中していた。
「君のアドバイスを求めたんだがね?」
そう言ったのは、奥のテーブルに着く飯島だ。恭香はおろおろしながら、
「申し訳ありません。つい、別の事に気を取られまして……」
「君らしくないな。だが、逆に安心したよ。君も人間だった事に」
飯島のジョークが、場を和ませる。張り詰めた雰囲気が明るくなった。しかし、恭香は小さく身を縮ませると、〈申し訳ありません〉と消え入りそうな声で謝るのだった。
ー夜ー
恭香は帰宅すると、慌ててリビングへと向かうとソファの前で四つん這いなった。
送られた映像からソファと対面する位置に、カメラが隠されていると思ったからだ。
だが、それらしき物は見当たらない。恭香は焦る気持ちを抑えつつ、ソファに座ると、
(…あれは……)
目の前に見えるのは電源コネクターだった。テレビや電話のプラグが差し込んである。
(もしかして)
恭香は慌ててソファから離れると、コネクターに近寄り凝視した。すると、直径2〜3ミリだろうか。コネクターの化粧カバーに穴が空いていた。
走るようにキッチンへ向かう恭香。流し台の引き出しにしまってあるドライバーを握ると、リビングに戻って化粧カバーを外した。
「…何…これ……」
化粧カバーの裏には、直径1センチ、長さ3センチほどの黒い筒に四角い箱が付いた、超小型の一眼レフカメラのような物がセットされている。そこから伸びるコードは電源に繋がれ、長い銅線が垂れていた。
(…こんな物で私を……)
恭香は、湧きあがる怒りに任せて盗撮カメラを引き剥がした。〈ブチッ〉という音を残してカメラは機能を失った。
安堵感からか、その顔には笑みが溢れていた。
その時だ、電話が鳴り響く。
おそるおそる受話器を掴む恭香。その声は、聞き覚えの無いモノだった。