Blackmail-5
ー昼ー
「この1年間、君の手腕を見せてもらったが素晴らしいの一言だよ。売上高は前年比200パーセント。このままいけば、純益は10億に達する。
たった100人でこの数字はトヨタ並だよ」
「…ありがとうございます。これも、飯島専務にご推挙並びに御尽力頂いたおかげです」
会社近くのホテルにある割烹料理店「ふたば」。京都のお茶屋を模したような和室。床の間にあしらわれた梅の生花と、鉄舟の掛軸が、部屋の雰囲気を凛としたモノにしている。
恭香は専務の飯島と会食に来ていた。彼女がプログレス・コンサルティング社部長になれたのは、ひとえに飯島の後押しがあったおかげだった。
飯島は役職こそ専務だが、実質本社での実力はナンバーワンだ。
恭香が入社した際、本社では人事部長のポストを考えていた。が、飯島は難色を示した。
人事部では、恭香の実力が発揮出来ないと考えたからだ。
結果、飯島は自分の子飼いの山岡が社長を務める、子会社の部長職をオファーしたのだ。
飯島は言葉を続ける。
「1年前、君に〈3年で改革してくれ。その実績を持って本社に来れば、誰も文句は言わん〉と言ったが、たった1年でこれほどとは……私の目に狂いは無かった」
「ありがとうございます…」
飯島は不敵な笑いを恭香に向けながら、
「次は本社で、君の経営手腕を見せてくれ」
「…はい……」
飯島の言葉に答えながら、恭香もニヤリと笑った。
飯島との会食を終えて、会社に戻った恭香は、席に着くと新着メールのチェックにディスプレイを見つめる。
顧客からのメールが数件届いていたが、1件だけ見覚えの無いアドレスのメールがあった。
件名に〈三上部長様 契約について〉と書かれていた。
(…誰?……)
恭香は、不可解に思いながらもメールを開いた。すると、
(…こ、これは……)
今朝の紙切れ同様、淫猥な映像と共に文章が書かれている。
〈今朝の写真は如何でしたか?貴方がメス豚である事を、皆に教えたいですよ〉
恭香の額に脂汗が滲む。
(…いったい誰が……)
恭香は、速まる鼓動を部下達に悟られまいと、平静を装うのだった。