投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『my dream』
【青春 恋愛小説】

『my dream』の最初へ 『my dream』 3 『my dream』 5 『my dream』の最後へ

『my dream』-4

「…そうだな。よし、それなら俺が黙って行ったことにすればいい。何か聞かれたら休学か自宅療養中…いや、両親のとこに行ったとでも言っといてくれ。」

今考えられる実用的な嘘といえばこれしかなかった。しかし、喧嘩して張り手を食らわせた男の家までわざわざ謝りにくる義理も時間も彼女にはない。そう考えると何とか上手く行きそうな気がしないでもなかった。俺の必死の説得により二人もしぶしぶ同感した。
「分かった。でも、本当に行くのか?行かなくてもそのうち夢ぐらい見つかるんじゃないか?」
伸輔の言う事にも一理あったが、今度ばかりは誰の意見も聞くつもりは無かった。人に促されて持った夢などでは意味が無い。自分の夢を見つけたい。俺にも夢を持つ勇気がある事を彼女に証明したい。その思いから俺は旅立つ。一年後、そこにどんな答えが出ていようとも。そんなことを考えながら俺は今飛行機待っている。


あれから一年が経ち、留学を終えた俺はまた日本へ戻ってきた。日本時間で午後四時十三分。あいにく今日は土砂降りの雨だった。大学に留学修了の報告を終えた後、あの帰りにいつも寄っていた喫茶店へと向かった。伸輔達とは約束の時間より少し遅れて合流した。二人は温かく迎えてくれたが、やはりそこに彼女の姿は無かった。今日は家で作詞をしているらしい。そうでなくとも、来なかっただろうが…。変わったことといえば、伸輔と亜由が付き合い始めたこと。俺が留学して一ヶ月後のことらしい。俺がいなくなり、彼女も歌手としての活動を本格的に始めだし、二人でいる時が多くなったとか。それから、亜由が伸輔に思いを告げたところ、伸輔もまんざらでもなかったらしく晴れて、付き合うことになったらしい。ちなみに、彼女が俺とよく二人になっていたわけがここで分かった。それは二人の口から聞くことになった。

「でも、こうなったのも香苗と直己のおかげなのよね。」

「俺の?」

「それがさ、直己。お前よく香苗と二人になってただろ?あれこいつらが裏で仕組んでたんだと。マジ女ってコエ〜よ。」

「まあ、だますつもりじゃなかったんだけど、うまく二人になれなくてさ。そしたら香苗があたしも直くんと二人になりたいし、ちょうどいいねって話になってさ。ホントあの娘って世話焼きでさ。」

「そうなんだ。」

亜由が言うには、伸輔に気持ちがあったのは高校かららしく、グループ研究も俺たちがまだ二人でいる様子を見て、話を持ちかけてきたとのこと。俺と彼女が二人になることが亜由にも彼女にも都合がよいことであったのである。

「まあ、二人とも幸せそうで。おめでとう。」

「ありがとう。ああ…あと、香苗のことなんだけどさ…」

伸輔がすこし黙り、見かねた亜由が話し始めた。

「香苗…知ってるんだ。直己が留学したこと。」

「え?」

彼女に俺が留学した事はばれていた。俺が出国して五日後の事、異変に気付いた彼女は必死で嘘を突き通そうとする伸輔を自供させたらしい。しかもこの喫茶店で。

「すまん!直己!約束守れなくて…」

「伸輔…こっちのほうこそごめん。何か変なこと押し付けちゃって…」

今思えば、俺は何て酷い奴だと思う。友達思いの伸輔たちに俺のためだけに一年間も、周りの人間に嘘をつかせたのだから。しかも嘘がばれたことで俺に謝ってくる。彼らには口が裂けても謝りきれないだろう。そして、彼女はそれっきり俺の事は口にしなくなったらしい。彼女は俺の事をどう思っているのだろうか? 会いたいと思ってくれているだろうか? 俺はできれば会いたくはなかった。一年もの間留学したが、結局夢は見つけられなかった。こんな俺を見て、彼女はきっと笑うだろう。その時の俺は彼女に対してのそんな不安と悔しさが入り混じっていた。できればこのままずっと会いたくない。そんな思いで一杯だった。


『my dream』の最初へ 『my dream』 3 『my dream』 5 『my dream』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前