辛殻破片『仄暗い甘辛の底から』-7
◇
カノンがリビング中に鳴り響く中、僕は液晶画面に写る『変態馬鹿男』を見て困惑する他なかった。
変なボタンを押して切ってしまうかもしれない。 正にド素人の決定的な優柔不断所だった。
わざわざ凪を起こして聞く訳にもいかないし、どうすればいいんだ。
というかいい加減に起きてもらいたい。 こんなにもうるさいメドレーが鳴り続けても起きないって、明らかにおかしいだろう。
「……」
放っといてもうるさいだけだし、仕方がない、決断を僕の勘に委ねよう。
「…えい」
適当にボタンを押す。
あれほどうるさかった部屋が、一瞬にして沈黙を呼んだ。
ということは…。
念の為、携帯電話を耳に当ててみる。
「…もしもし」
「やっと出たか馬鹿女。 おせーぞ馬鹿野郎!」
繋がったのは嬉しいけど、なんだか切りたくなった。
「……秀麻、というか佐々見ですが」
「………はっ? ショウたん?」
「…はい、将太です」
沈黙。
「何故にお前が出るんだ? 俺はアイツに発信したはずだけど…」
「僕からも質問をいいか? 色々と雑音が聴こえるけど、今はどこにいるんだ? 学校じゃないのか?」
「あー…学校…は早退してきた」
なんでだ? 今日は…
「テスト…は?」
「…少しバトルをしただけで、まったくの無問題だ。 気にするな」
バトル? よくわからないけど、サボったらしい。
「由紀奈はもう行ったか。 とりあえず聖奈さんに替わってくれ」
「聖奈さんなら何十分か前に出掛けたって雪さんが言ってた。 でもまだ帰ってこない」
「…そうか。 じゃ、学校も出たし、今から帰るわ。 話も後だ」
そうか、忘れてた。 透に聞くべきことがあったんだ。
本人もこう言ってる通り、透が帰ってきてから話そう。
「ああ、コンビニ寄ってくけど何かいるか?」
「今のところは…いいや」
「オーケイ。 じゃあ切…おわっ!!?」
「え?」
まだ通話中のままだが、声が小さくてよく聞き取れない。 何があったんだろう。
「透?」
透が何か言っている。 耳を澄ます。
「…いや…学校は、ってか…服が赤…」
透の声と同時に、他の第三者の声が聴こえる。
「学校はどうしました、と聞いているんです! ちゃんと答えて下さい! 透くん!」
大声だったからよく聴こえる。
聖奈さん…何故そこに?
「透、透? 一回だけ聖奈さんに替わってほしい」
「今電話中なんで…すみません、ちーと待ってもらえたら…」
「なら尚更! 話をしてる時は切って下さい!」
…どうやら取り込み中らしい。
どうしよう。 これ、お金とかかかるかもしれないし、切った方がいいのかな?
と考えてる内に勝手に切れた。 いや、切られた。
「…………」
未だ眠っている凪のポケットに電話を突っ込んでおいた。
「やん…ショウちゃん…そこはらめぇ…」
「…………」
「………くぅ…」
実に毒々しい気分である。 何よりもお腹が減りすぎて死にそうだ。
「……憂鬱、かなぁ…」