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甘辛ニーズ
【コメディ その他小説】

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辛殻破片『仄暗い甘辛の底から』-5

 石田 加護芽
 俺はこいつを舐めていた。 どうせ一人じゃ何も出来ない女だから、利用しても構わないだろうと。
 しかしその全てが捻じ曲げられた。

 どんなものかは知らないが構えと蹴りの体勢を見たところ、間違いなく石田は達人の域に達している武道家だ。

 いや、既に達人以上の腕前かもしれない。

「…くっ」
「捕まえました…!」
 扉まであと一歩の場所で、後ろから石田に襟首を掴まれた。

 ここからは完全に石田の独壇場となるだろう。
 それでも俺は掻い潜らなきゃいけない。 自業自得ではあるが。

 願を通し、切めく已ます……!

「…なあ、カモメさんよ」
「かごめです…」
「なんでもいい、とりあえず聞け」
 俺にだって、雪柳流のやり方というものがある。 黙って喰らう馬鹿じゃない。

「俺は華麗な鳥を落として食うタイプとは違う、見て和むタイプだ」
「…どういうことですか…?」
「本気を出したら、お前を食っちまうかもしれない、ってことさ」

 断じて言うが、ハッタリではない。 食うときは食い、捨てるときは捨てる、それがこの俺トオルガイ。

「格は断然お前の方が高いだろうな。 だが俺は男、お前は女。 実力の差ってヤツはある」
「……だからと言って、この場は…実力なんて関係ないと思います…」
 ごもっとも。 だからこそ、だ。
「ま、もういいか…」


 しつこい様だが、ハッタリではない。 俺の実力は姉貴が認めるほどに本物であると、自分でも確信している。
 才能…かどうかは微妙な線だが。

 どこを掴まれようが俺は動けるのさ。
「『逃』を制す者は『動』を制す…其の伝、自分は賛成だな」
 後ろから襟首を掴まれてるだけで、体全体が動けない訳じゃない。
 関節の動きは確かな方でね。

 肩を曲げ、両腕を後ろに突っ張ると同時に、柔らかい物が掌に触れる。 ここだ。
 そして手を動かす。 もとい揉む。
「んん…っ!」
 ビンゴ。
「着痩せか。 Cはあるな」

 決してセクシャルハラスメントではない。 立派な正当防衛と言う。

 襟首から石田の手がパッと離れる。
「グッバイ石田。 二つの山、存分に食わせてもらったよ」
 電光石火の如く逃げ出す俺。



 我が教室に突撃。 寝ていた奴、遊んでいた奴に関わらず全生徒がこちらを見た。
 だが構わん。 俺は逃げることしか考えない。
 早々と自分の席まで行き、机にかけてある鞄を肩に掛ける。
「先生!」
 俺の呼びかけにより、突っ伏して眠るだらしない教師が高速で起きた。 しかしあくまでも目は覚めていない。
「おお雪柳。 先生はデザートのマグロアイスを美味しく食してる最中だから、用件は後にしてくれると助かる」
 どう考えても美味ではないだろうが、夢の中では味覚が美化されてる様だ。 どこまでも幸せ教師め。


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