辛殻破片『仄暗い甘辛の底から』-4
「…おいおい…なんでいるんだ…」
「…………」
更に驚いた。 そこにはありえない人物が立っていたから。
いや、俺が考えていなかっただけで、実際に" ありえているのか "?
石田 加護芽(いしだ かごめ)
行動力もなく、ただの地味な秀才系引っ込み思案女。
自分からは積極的に動かず、微妙に『ケセラセラ』の女。
" 利用されやすく、間違った方向に優しさを使う馬鹿な女 "。
この後、俺はこいつの情報を全て書き換えることになる。
最早寝てもいられない。 俺は立ち上がった。
「テストはどうしたんだよ…?」
「…こっそり抜けてきました…」
「いや、こっそりって」
驚きの上を越えて驚いた。
理由は明白、こんなことをする女だとは思っていなかったから。
先生にバレようがクラスメイトにバレようが、こいつは自分の意志でここまでやってきた。
つまり、引っ込み思案なこいつを行動させるほどの、莫大な理由があるってことだ。
この空気は何か危ない。 そう感じ、俺は石田と一度コンタクトを取ろうと考えた。
「まあ…なんだ…」
「……」
「怒ってるよな…」
「……」
決して怒ってるようには見えない、少し眉をしかめているだけの石田だが、やはり…怒りのような何かを感じる。
「…すまん……」
わざと頭を掻きつつ、謝罪の言葉を口にする
「…謝っても許しません」
一言。
たったの一言だ。
それが始まりの合図だなんて、思うかよ普通。
誰がフルコンタクトって言ったよくそったれ。
ほんの一瞬。 多くの雑音の中に『風を切る音』が聴こえ、反応できたのはそこからだった。
左から何かが頭目掛けて高速で飛来してくる! と本能が確認し、頭を掻いていた手を咄嗟にこめかみ辺りにやり、防御反応を示す。
飛来してきた物が勢いよく手の甲に当たり、耳元の近くだった為か轟音が耳に響く。
目で見なくても既にわかっていた。 当たった物は…石田の足。 蹴られたんだ。
「…初っ端から頭狙いとは、度が過ぎてるぜ」
「…加減なんて、元から効きませんから…」
小さく舌打ちをした。
まさかこんなんだとは…。 …仕方ない。
「お、この角度なら…風でめくれてパンツが見える」
「えっ」
よし、チャンスだ、足を戻した。
階段に繋がるドアへ一直線、俺は足に神経を集中させて全速力で走った。