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甘辛ニーズ
【コメディ その他小説】

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辛殻破片『仄暗い甘辛の底から』-3

 神風の如く、豪快に音を立てて席を立つ俺。
 すると大半の生徒が何事かと俺を見る。 その中でも特段、石田はかなり驚いていたが気にしない。
 しかしアレだな。 よく考えるとコイツら、カンニングじゃないか?

「先生!」
 寝ぼけ眼で涎を垂らしてる情けない教員を呼ぶ。 同時に鼻提灯が割れた。
「…ん? なんだ雪柳、先生は食事中だぞ」
 まだ夢心地かこの馬鹿。

「テスト終わりました」
「えっ!?」
 俺の一言を聞き、石田が叫ぶ。 やっと様子を理解したようだ。
 クラスメイトの俺への視線が石田へと変わり、当事者は顔を真っ赤にして縮こまる。 チャンス到来か。

「そうか。 それじゃあ先生の食事が終わるまで待機しててくれ」
「いや、それがですね、ちょいと腹の調子が悪くて。 保健室で休んでてもいいでしょうか?」
「それは仕方ないな、行ってこい。 あとエビピラフと麻婆豆腐を食べ終わったら呼びに行くから」
 つまりチャイムが鳴ったら、か。 夢の中でも自分の立場を忘れないとは、本当に立派で馬鹿な教師だ。
「どーも」
 軽々と教室を出ていく俺、呆然と俺の後ろ姿を見つめる石田とその他。
 石田に関しては、呆然なんてもんじゃないな。 目が黒点二つだったし。



 もちろん腹は痛くない、故に行き先も保健室じゃない。
 じゃあ何がしたいんだと問われると、雲が揺らぐ安らぎの地、遙かなる晴天の下に伏す、としか言えない。

 ま、端的に言ってしまえば" テストをサボって屋上で休む "だな。



 厳しい寒さを越えて吹き抜ける、気持ちの良い風だ。

 青春、春風、風雲と共に。 雲行きは吾妻の空、青い空へ飛んで行け。

 …ああ、" 飛翔の如し "を忘れていた。

「……どうでもいいか…」
 泳ぎたくなるほど晴れた空。 眠気もいずれはやってきそうだ。

 太陽により照れた床に寝っ転がる。 温かくて本当に眠っちまいそうな予感がする。
「……」
 正直、眠りたいという気持ちはある。
 だがここで眠ってしまったら負けな気がする。 というか負ける。

「あー………」

 雲間から時々見える太陽が眩しすぎて目を閉じてしまう。 が、睡魔には負けぬように意識だけは保たせる。

 もうすぐ冬だっていうのにすごいな、地球。 季節の基準を変えてしまうとは。

 こんな空だ、聖奈さんは歌ってるだろう。 洗濯物を干す時にだってよく歌ってたし。
 そういやどんな歌だったっけか。
「Un son……」
「あのっ!!」


 あまりの大声にびっくりして、上体を素早く起こす。
 そして声の元を探した。


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