やっぱすっきゃねん!U…A-9
永井は、空になったコップにビールを注ぎながら、
「しかし、今日1日でずいぶん勉強になりましたよ」
一哉は少し照れた様子で、
「そう言って頂けると有難いです。なにしろ野球になると、周りが見えなくなるタチでして……」
「だから昼休みを一緒に過ごしたんでしょう?アレで午後からの雰囲気がガラッと変わりましたから」
一哉はコップを一気に傾けると、遠い目をして、
「必ず、アイツらを全国大会に連れて行きたいんです。そのためには、今日以上の練習が必要になってくるでしょう。それに付いて来らせるには、子供達と指導者がひとつにならないと……」
つい本音を漏らした一哉は顔を赤らめ、フッと力を抜いて永井を見ると、自らに言い聞かせるように。
「よしましょう。それより、永井さんは何故、野球部に?」
永井もビールをひと口飲むと、
「実は私、高校まで野球をやってまして。それで青葉中に赴任した翌年に、榊さんに誘われたんです」
「へぇ、どちらの高校です?」
永井は言いにくそうに、
「〇〇高校って進学校なんです。県大会はいつも1〜2回戦負けのチームでした」
そして、深く息をすると続けて、
「だから、榊さんから貴方が来てくれると聞いた時、本当に驚きました。嬉しかった。
甲子園で見せていた貴方のピッチングは強烈でしたから。〈これで強くなれる〉と思いました」
永井の熱い思いを聞きながら、一哉は苦笑いを浮かべると呟いた。
「所詮、お山の大将です……」
「エッ?」
一哉は、取り繕うように作り笑顔を永井に向けると、
「いえ…とにかく。明日も頑張りましょう」
秋の匂いのする夜風がそよぐ中、2人は杯を酌み交わすのだった。
ー翌日ー
「い…いたた……」
朝9時前。部員達がグランドに集まって来た。佳代も保健室から向かっているが、その動きはぎこちない。
昨日の練習で全身が筋肉痛なのだろう。時折、顔をしかめて列にたどり着いた。
それを見つけた直也は、ソッと佳代の後に廻ると、ギュッと太股を掴んだ。
「いやああぁぁっ!!」
列の中に佳代の悲鳴が響き渡る。さすがに何事かと信也が駆け寄ると、ひとり直也は大声で笑っていた。
「このォ!ナオヤ!」
佳代は直也を睨みつけると、地面を蹴って飛び掛かる。
直也は、その動きを察知して素早く逃げようとしたが、ガクンと身体が引っ掛かった。
信也が襟首を掴んでいたのだ。その瞬間、佳代の平手が直也の頬を捉えた。