やっぱすっきゃねん!U…A-8
ー夜ー
「そうか!とうとう藤野さんが…」
コップに注いだビールを飲みながら、加奈の話に耳を傾ける健司の顔は喜びに溢れている。
澤田家の夕食。
子供達は唐揚げとマカロニ・サラダに夢中で、特に佳代は貪るように食べている。
「アンタの食べ方!もう少し女の子らしくならないの」
見かねた加奈が佳代を叱ると、空になった茶碗と汁碗を持って、
「明日のために沢山食べなきゃならないの!」
そう言って大盛りご飯と、味噌汁を注ぐと自分の席に戻る。
「そんなにキツいのかい?」
健司はコップを傾けながら尋ねる。すると、佳代は口いっぱいに頬張って、
「…ひままでほ……」
「アンタまた!飲み込みなさい!」
あまりに急いで食べるため、昔の〈口にモノを入れたまま喋るクセ〉が出てしまった。慌てて麦茶で飲み込むと、
「ふうっ…今までの倍以上だね」
佳代の説明をフォローするように、修が健司に伝える。
「だって父さん、姉ちゃん帰って来て、すぐにリビングに寝込ろんでんだよ」
「そんなに……」
健司は、少し心配気な表情で佳代を見つめる。が、佳代はいつもの負けん気の強そうな顔を家族に向けると、
「大丈夫!私、必ずコーチの練習について行くから」
そう言ってにっこりと笑った。
その顔を見た健司、加奈、修もつられて微笑む。
ひと月前、あれほど追い詰められていたのが嘘のような笑顔だった。
昼間の暑さが少しは和らぎ、風が出てきた。
永井と一哉は、近所の小料理屋を訪れていた。
格子戸の店構え。中は、10人も座れば満席のカウンターだけで、その上に、伊万里だろうか。鮮やかな大皿に盛られた季節の料理。
「それじゃ藤野さん。初日、お疲れさまでした」
永井がコップを手にする。
「永井さんこそ。お疲れさまでした」
一哉がコップを重ねる。
今夜は永井が、一哉の就任祝いとして馴染みの店に誘ったのだ。
一哉は、コップを傾けて店内を見回す。
「なんだか和む雰囲気ですね……」
白壁に、縦横に走る黒い柱に鴨居のコントラストが鮮やかで、天井から吊された照明も、竹と和紙のシェードで雰囲気にマッチしている。