やっぱすっきゃねん!U…A-7
「オマエ、なんで小さい子みたいに箸握ってんだ?」
箸を握って弁当を食べている佳代を見た一哉が訊いた。
「…いや…あの……」
返答に困っている佳代を尻目に直也が、
「コイツ、練習がキツくて箸が持てないって」
「うるさい!この、お喋り!」
佳代は直也に悪態をつく。一哉は小さく笑って、
「今日は初日だからな。ひと月もすれば慣れるさ」
すると、今度はキャプテン信也から、
「コーチ。朝の練習で〈余計に水分を摂れ〉と言われてましたが?」
「ああっ!それは私も知りたいですね」
監督の永井も割って入る。一哉は食べかけの弁当を置いて、お茶をひと口飲むと、
「大学の研究で最近分かったらしいんです。運動中の発汗量と被験者の求める水分摂取量を比較する実験が行われたそうで、
すると比率が3:2のだったそうで、普通に水分補給をやっても身体の脱水状態は解消しないんです」
永井は感心しきりで、
「だから余計に……」
一哉は頷きながら信也を見ると、
「ただ、急に水分補給を増やしても〈取り込める身体〉にはならんらしい。だから、徐々に増やしていくんだ」
「コーチ、四股はどこに効くんですか?」
今度は副キャプテンでキャッチャーの山崎だ。一哉は再び答える。
「内転筋と言って太股の内側。それに体幹、股関節だ。内転筋はバッティング、ピッチング共、身体を素早く回転させて力を押し込むのに必要だ。
体幹と股関節はスポーツもだが、全ての動きに連動している。身体が移動する場合、身体は股関節から移動して体幹に伝わり、最後に筋肉が動く。
そこを鍛えられる四股は、優れたトレーニング方法なんだ」
〈立て板に水〉の如く、質問に答える一哉を見つめる部員達の胸の内には、最初のイメージは消え失せていた。
一哉への質問は、昼休みいっぱい続いた。