やっぱすっきゃねん!U…A-6
佳代の様子を、傍で見ていた橋本淳は、
「とりあえず〈グー〉で握って刺して食えば?」
佳代は弁当を見つめると、ため息を吐いて、
「仕方ない。そうしよ」
そう言って箸を握ると、ウィンナー炒めを刺して口に運ぶ。
「明日から手でつまめるモノにしてもらえよ」
橋本の言葉に、佳代は〈うんうん〉と大きく頷く。
ちょうどそこに、永井と一哉がやって来た。手には弁当を持っている。2人は〈オレ達も混ぜてくれ〉と言うと、輪の中に入り弁当を展げた。
「久しぶりですね。コーチと一緒に食べるの」
山下が声を掛ける。一哉は、サングラスを帽子に引掛けると笑顔で、
「そうだな。オマエ達とは2年ぶりか…」
先ほどまでのキツい表情が嘘のように、柔和な顔を見せる一哉。
「でも、相変わらずコンビニ弁当ですね。コーチも早くお嫁さんもらわなきゃ!」
目ざとく見つけた佳代は、おどけた表情で一哉をからかう。
「やかましい!オマエ2年前も同じ事言ってたなぁ。お母さんと2人して」
顔を赤らめ、言い返す一哉。
そのやりとりを見ていた、山下や橋本など、かつての教え子達は声を挙げて笑っているが、他の部員達はそんな一哉を見て唖然としている。
彼等から見た一哉は〈鬼コーチ〉という印象しか持ち合わせていなかったからだ。
〈部員と一緒に飯を食う〉
これは佳代の母親、加奈のアイデアだった。
ドルフィンズ就任当初、一哉はその〈野球になると人が変わる〉性格故に親達から〈怖い人〉という誤解を招いていた。
そんな時、初めて佳代の父親、健司の自宅へ招かれ、酒を酌み交わした。
この時の一哉は終始笑顔で、とても、ドルフィンズの鬼コーチと同一人物とは見えないくらいだ。
その時、加奈が一哉に言った。
「藤野さんって、本当は気さくな方なんですね」
その言葉に、一哉は加奈に訊いた。
「じゃあ、普段はどう見られてるんです?」
加奈は少し考えるふりをして、
「そう…鬼コーチかな?」
この言葉に一哉は一瞬、ムッとしたが、すぐに苦笑いを浮かべると、
「そいつは困ったなぁ……」
すると加奈は笑顔を向け、
「ねえ藤野さん。昼休み、子供達と一緒に過ごされたら?」
加奈の提案に一哉は少し驚いた表情で、
「昼を……ですか?」
「そう。昼休みになると、藤野さん居なくなるでしょう。だから立花さん以外は怖い貴方しか知らないのよ。
今の気さくな一面を見れば、きっと見る目が違ってくるわ」
一哉は、さっそく翌週から昼食を子供達と一緒に過ごす事にした。最初、子供達は戸惑っていたが次第に打ち解け、それに伴い親達の見る目も変わっていったのだ。
それを中学でも取り入れようと、永井に相談したところ快く承諾してくれた。