やっぱすっきゃねん!U…A-4
2、3年生が帰って来た。1年生の時よりさらに険しい形相で、肩で息をしている。中にはしゃがみ込んでいる者さえ。
その姿が、いかに最後のペースが速かったかを物語っている。
だが、一哉は容赦無い。
「さっさと起きろ!すぐに水分補給だ」
2、3年生は小走りで、日陰に置いてあるスポーツドリンクの入ったタンクに集まると、プラスチックのコップで飲みだした。
「ったく…オマエのおかげで、とんだ体力使っちまったぜ…」
直也に悪態を付くのは3年生の菅だ。脚に自信のある彼は直也に抜かれたのがショックのようだ。
すると直也は荒い息で、菅に微笑むと、
「…一応…ピッチャーなんで…長い距離は…慣れてるんです…」
その時、一哉から声が掛かる。
「いいか。〈もう充分だ〉と思ってから、もう1杯飲んどけ」
部員達は、言葉の意味が分からなかった。が、とりあえず言われた通り余分に飲み干す。
「コーチ…今のは?」
永井の問いかけに、一哉は〈後で答えます〉と言ってグランドを見つめる。
佳代が帰って来た。
「…ハァ……終わっ…ワァッ!」
走り終えた安心感からか、急に力が抜いた佳代は両足が絡まり、そのまま滑り込むようにグランドに倒れ込んだ。
「……イッタ〜…」
ゆっくりと立ち上がり、ユニフォームの埃を払っていると一哉が近付いて、
「…痛みは無いか?」
佳代は慌てて手を振って、
「こ、こんなの、平気です!」
一哉は口元に笑みを浮かべながら、
「そうか。すぐに顔を洗ってこい。それから水分補給だ。いつもより1杯余計に飲めよ」
「ハイッ!」
佳代は手洗い場へと駆けていく。その後姿を見つめる一哉は小さくため息を吐いた。
ランニング後のストレッチが終わる。これまでならキャッチボールだったが、永井のメニューは違った。
全くボールを使わないトレーニングだった。
まずスクワット100回。ヒザを曲げて再び伸ばす動作の繰り返し。この時、上半身の重さが太股やふくらはぎに掛かる。
ランニングを終えたばかりの脚にはかなりの負担だ。