やっぱすっきゃねん!U…A-3
「…はぁ…ちょっと……」
5周目を終えたあたりから、佳代は遅れ始めた。中間走では、持ち前のスピードから前との距離を詰めるのだが、その後は離されてしまい、2、3年生の列から50メートルほど遅れて、1年生の真ん中あたりを走っている。
「カヨッ!何やってんだ!」
一哉の容赦無い怒号が名指しで飛んで来る。
「…クソッ!…くっ……」
必死の形相で追いつこうと、スピードアップさせる佳代。だが、100メートルもすると息が続かず、また距離が開く。10周目には、その差100メートルに広がる。
「1年ラスト!」
一哉がメガホンで叫ぶ。
いつもならダッシュするところだが、すでに普段の1.5倍の距離を走っているため、わずかにしかスピードが上がらない。
それでも、真ん中辺りを走っていた佳代は少しずつ遅れだす。
(…あ…あれれ?…)
1人、また1人と抜かれる佳代。そして、ついには最後尾にも抜かれる。いくら、ダッシュをしてるとは言え内心穏やかではない。
(…これで1年生が終わると…また単独ビリ……ヤダなぁ……)
佳代は、切れ々の息の中ペースを上げようと、もがくように手足を振った。
1年生が帰って来た。皆、険しい顔で荒い息をしている。すぐに一哉から水分補給の指示が飛ぶ。
「17分半……キロ3分半か……」
一哉は手帳に書き込むとグランドを見つめる。
50メートルほどの数珠つなぎになって走る2、3年生。さらに100メートル以上離されて、佳代がひとり前を追う。
「…相変わらず遅いなぁアイツは……短距離なら男子にも負けないのに」
一哉は、また独り言のように呟いていると、永井は苦笑しながら、
「あれでも大分成長したんですがねぇ」
すると、一哉の顔から笑顔が消えた。
「監督。アイツはまだ自分の〈可能性〉に気づいてないんですよ。それが私には勿体無くて」
「可能性……ですか?」
「野球部に戻っての1ヶ月、アイツなりにやってたんでしょうが……」
一哉はそれ以上は口にしなかった。
「ラスト!!」
一哉が声を掛ける。同時にペースを上げる2、3年生。中でも直也は凄かった。先頭を走る兄、信也に追いつこうと他の3年生を抜いて行く。
だが、3年生もプライドからか、再び抜き返そうと必死に喰らいつく。かくして皆が引っ張られるように、速いペースで最後の1周を駆けて行く。
(うっそお〜!まだペース上がるの)
対して佳代はペースが上がらない。前との差がグングン広がるばかりだ。