やっぱすっきゃねん!U…A-2
「そう!来年は佳代と2人で、また藤野コーチに教えて貰えるわね」
加奈と修の手放しの喜びように、佳代は〈意地悪〉を言いたくなった。
「でもね、おかげで凄い練習になったよ」
「エッ?」
佳代は身を起こして座ると、今日の練習がいかに凄かったかを加奈に聞かせる。
「…もう、鬼だね。あそこまでいくと…」
一哉の挨拶で始まった練習。監督の永井が言った。
〈今日から練習を一新する!〉
その内容を聞いた部員達は、顔色を変えた。
〈ランニング15周。中間走15本〉
要は、1周500メートルを15周(1年生は10周)走り、途中にある100メートルほどの直線路を全力の7〜8割で走り抜ける。距離にして、これまでの倍以上だ。
(…うえぇ……じゅうごしゅう……)
ただでさえ長距離が苦手な佳代は、心の中で恨む。
ランニングが始まった。60人がひと塊になって校庭を大きく走って行く。一哉は、腕時計のストップウオッチをスタートさせた。
1周目を終え、部員達はいつもよりかたまっている。一哉がストップウオッチを見る。約2分と少し遅い。
その瞬間、一哉は集団に駆け寄ると、
「何をテレテレ走ってる!遅れてるぞ!」
一哉の怒号に、部員達は弾かれたようにスピードを上げる。途端に列がバラけだす。
2周目。1分45秒。
サングラス越しの一哉の目は、部員達には分からないが明らかに不満顔だ。
「まあ…初日だからこんなもんか……」
永井の隣で独り言のように呟くと、ユニフォームのポケットから手帳を取り出し何やら書き留める。
それを覗き見る永井。
「何です?それ」
「彼等の1周毎のタイムです。これから毎週測って伸び具合をチェックするんです」
そして永井の方を見ると、笑みを浮かべ、
「自分のタイムが伸びれば、やる気も変わってきますからね」
その言葉に、永井は驚きと同時に感銘を受ける。
「…そんな事まで見るんですか……」
一哉は部員達のタイムを測りながら、
「まあ…中学生とは言っても所詮子供ですから。タイムもですが、〈自分の事をちゃんと見てくれている〉と思わせるのも大事なんです」
そう言った横顔から見える一哉の目は真剣だった。