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甘辛ニーズ
【コメディ その他小説】

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辛殻破片『甘辛のエクリチュール』-2

「…じゃ、じゃあ! 代わりを言って申し訳ないのでスが! そ…その、え、えが、え、ええ、えがおとか!」
「ふえっ? えがお…?」
 えがお…Sourire? 英語だと…すまいる?
「あいやっ! 失言っス! ぷりちーな笑顔を見せてくれれば仕事が張り切れそうっスーとか! 断じて! 思ってない! っス!」
「…あらあらまあまあ…」
 …よくわからないけれど、そんなことでいいのかしら?
 でも、それでがんばれると言うのならば。
「うーん…先に謝っておきますね。 笑顔を作るのは下手なんです」

 そう言えば透くんに初めて、いえ、四回目に会った時も、こんな感じのやり取りをした記憶が残っていました。
 大切な記憶…ひとひらの花と共に、ゆりかごの中に仕舞われていた大切な記憶でした。
 …この話はまたいずれ…雪柳 透くん、わたしの弟君に…。

「…はっ!? 自分は! 別に! けし……!!」

「ええと…これで宜しいのでしょうか?」
 聞くと、微妙に首肯したような、そんな返事が返ってきた。
「お役に立てたのなら恐縮でもありますが、光栄です。 …あ、すみません、さすがに時間がなくなって参りましたので。 それでは、失礼します」
 …魚類コーナーに用はなかったのに、滞在しすぎちゃいました。


「…さて」
約二十分間の末に決断した選択は『カレーライス』。

 野菜は家にあるとして、足りない材料は肉、香辛料などと、あと必要なものがカレー粉。

 大事な点も一つ。
 甘口、辛口、中辛。 …どういう風にしましょうか。




 買い物を終えて、外に出る。
 青い空は変わらず、白い雲だけが浮いていた。
「Plaisant…」

 わたしのもう一つの地元、フランス。
 他の国からはプライドが高いと思われがちで『唯我独尊国』などと呼ばれているが、半分その通りで、半分間違っている。
 実は協調性があり、街の中で一人が歌えば、何十人もの人が賛同して歌い出す。 意外にも『自由奔放』な国である。
 もちろん、そういった行為を「喧しい・五月蠅い」と快く思わない人もごまんといる。
 しかし何を取っても至って優越してる国なのだ。

 こんなにも気持ちがよくなる青空の下に、わたしは存在する。
「Un son crouler de jade…c'est " cadenza de etoile chanson "…la la la…la la la…」
 ハーフではあるけど、無論、フランスの血も流れている。
 ここは日本。 居心地の良い国なのだから、小声でも歌いたくなる感情は止められない。


 せっかくだから、ということで背伸びをしてみた。
「んっ、んん……」
 ぐぐっと、限界まで背筋を伸ばす。 ところが…

 ぐきり。

「くぁっ」
 下腹部の辺りから鈍い音が聞こえ、よろよろと蹌踉めいてしまった。
 …腰が痛い。


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