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三つ目のおねがい
【大人 恋愛小説】

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三つ目のおねがい-1

 午前中の真っ白な陽射しに照らされているのに、目の前の街並みはまるで真夜中の様に静かで、その全てに僕は今日が元旦である事を改めて感じる。

 人も車も居ない、空っぽな街並み。

 それは、左隣を歩く千尋にとっても同じ事らしく

「静かねぇ。流石に、お正月だわ」

白い息を口許から漏らしながら、独り言の様に呟いた。

 二人が暮らし始めて、初めて一緒に迎える新年である。
 まだまだ色々と物要りで、あまり派手に過ごす事は出来ないから、年末年始のレジャーは諦めたし、初詣も先程、近所の神社で慎ましく済ませて来た。

「ねえ、あそこの神社ってさ、願い事を三つ叶えてくれるんだよ? 知ってた?」

 境内にあった立て看板に、そんな解説が掲げられていた事には僕も気がついていた。
 だから

「ああ、ちゃんと三つ、願い事をしたよ」

それくらい知ってるぞと、鼻を鳴らしながら応えてやる。

「ねえ、何をお願いしたの?」
「うん、まず仕事だろ? あと健康、それから……」
「それから?」
「なんでもない、秘密だ」

 言いかけて思わず止めたのは、三つ目の願い事が「二人で仲良く、ずっと一緒に暮らせますように」だったからだ。
 流石に、こいつは言葉にするには強烈に恥ずかしく、ましてや街中で簡単にサラリと言えるものではない。
 現に、少し思い浮かべただけで、頭に全身の血が上って、耳の先まで熱くなってくる。

「ふーん、秘密ね」

 そんな僕を横目に見ながら、千尋が何かを察した様に、ニヤリと微笑んだ。
 そして

「まあ、いいわ。大体解ったから。アンタってばホント、見掛けによらず昔からロマンチストよね」

僕の心の中の全てを把握したかの様に、更にニヤニヤと笑う。

「そ、そっちは、どうなんだよ!」

 からかわれた様な気がして、悔し紛れに訊き返すと、千尋は僕の真横から一歩前に出て、髪を揺らしながら振り返り、先ほどよりも一層微笑みながら言葉を投げた。

「最初の二つは、アンタと同じ! でも、最後のは、たぶん違うわ」
「違う?」
「私ね、三つ目は、アンタの願い事が、全て叶いますようにって、お願いしたのよ!」

 言いながら得意気に鼻を鳴らす彼女に、僕は思わず「なるほど」と思う。
 そして、少し安心しながら

「なら、大丈夫だ」

小さく呟いた。

「ん? 何が大丈夫なの?」
「……なんでもない」
「もう、気になるじゃない、教えなさいよっ!」
「なんだ、大体解るんじゃなかったのか?」

 笑顔を一転、むくれながら詰め寄る千尋にとぼけながら、あしらいながら歩いて行く。
 そして、空っぽの街並みに跳ね返る二人の声を耳に透かしながら、少しだけ沸き上がる様な実感を得るのだ。

 ああ、今年が始まって行くな、と。




おしまい。


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