河も人生も流れます。 -1
一橋教授は、河を船で渡っていた。
これから孤島での会合がある。
スピーチも頼まれていた。
題目は
「如何に生きるか」
レポートに目を落とし最終確認をしながら教授が船頭にたずねた。
「ちなみにキミは、哲学について考えたことがあるかね。」
「いえ、全然。おれは毎日この河を行ったり来たりするだけですから。」船頭は答えた。
「考えたこともねぇです。そんなこと考えても銭には変わらねぇですから。」
「ふぅむ」教授はキセルを吹かしながら言った。
「なんと。それでもキミの人生の四分の一は、ムダに流されたな。
人生の生きる意味や意義をなんにも掴んでいないとは。
それでは船頭ならこの河の地質学については何か知ってるかね。」
「いや、知らねえなぁ。
何も考えなくたって、
目をつぶってたってこんな河渡れますからねぇ。」
ため息まじりに
「それじゃあ、キミの人生の半分がムダに流れていったわけだ。
それはムダな生とは言えないのかね。」
教授がもったいぶって言った。
突然、船は激しい波をかぶって激しく揺れた。
「おい、どうなっているんだ。」
教授は必死にしがみ付きながら聞いた。
それでもおさまらない。
そして転覆。
船頭はたずねた。
「教授先生、あんたは泳げるかね。」
慌てふためいて教授が言うには
「だめなんだ」
教授は必死に船にしがみつきながら答えた。
「それじゃあ、あんたの全人生が流れますぜ。」
船頭は言った。