道。-1
生きることは奪う事。
生とは略奪の連鎖。
今おれは戦場にいる。
消耗戦……
敵軍の物的交戦能力を殺傷・破壊することによって敵を疲弊させ、降伏や政治的解決を狙った戦い。
これは、殺傷・破壊それ自体が目標ではなく
脅威を作り出すことこそがその目的。
1980年。9月。
空は青い。
風は心地よく、おれは空をただ見上げていた。
言うなればこれは消耗戦に他ならない。
それは何か?
作戦目標はバノンレの物的交戦能力の破壊。
宗教対立から生み出された禍根。
同じ神を信じられぬが故の争い。
なぜ神を信仰する違いで人は血を流さなければならないのか。
おれは無神論者。
崇める偶像はなく、
転嫁してその業を擦り付ける対象は己のみ。
聖地アガルタロスを求め、それを拠り所にしようと、異端者を蹂躙排除するが為の血、兵器、狂気。
求めるが故に争い、奪い、争いがまた違った禍根を生み続ける。
歴史の道の大半を垣間見るかのような日々。
狙う。
撃つ。
奪う。
失い、
恨み、
また奪い失う。
血を流す。
バノンレに在る敵軍の補給地の陥落こそがこの消耗戦の要であり、そのすべてであった。
振りかえれば
4月。両軍の厳格な教徒が対立を深めて内線勃発。
同6月。第三国がこの状況の解決の為、平和維持という大義の旗を振りかざして軍事介入。
同7月。バノンレ軍のアガルタロス侵攻。
殺戮。
破壊。
戦滅。
三つ巴の争いが悪化し、一時バノンレ軍退却。
バノンレにて軍備を建て直す。
おれは反バノンレに雇われ8月バノンレへの消耗戦を仕掛ける。
膠着して現9月。
動きはなく、おれは空を眺めていた。
状況はすぐには変化しないだろう。
反バノンレの上層部の保守派達は慎重な意思決定をするために連日の会議。
その間に血は流れない。
少なくともおれの視界からは。
そもそもこの作戦が敵軍の掌握であり、物質の供給の破壊であり、脅威を与えて撤退させることが目的であるから。
ガキの頃よくやった殴りあいの喧嘩の方がよりリアルで明快で爽快だったかもしれない。
いわばおれは駒。
この戦場で行われているのはバノンレと反バノンレのマスゲーム。
上層部からは血が流れない。
流してまで欲する勝利は存在せず、それは血を流してまで信仰する偶像も救世も救済もあり得ないということだ。