確かなモノ-8
「絶対に負けないんだからっ!絶対に霜村以上の男を見つけて、アンタよりも先に結婚してやるわっ!」
彼女は顔の前で拳を作って、目を血走らせている。
あまりにも必死なその姿に、僕の顔がつい綻ぶ。
「見てなさいよ、霜村…ブーケ、投げつけてやるから」
ほぉ、それは楽しみですねぇ!
まぁ、そんなこと…させるつもりは微塵も有りませんが。
「そんなに結婚したいのですか?」
「違うわよっ!てか、なんかそのセリフ…微妙に聞き覚えが有るのがムカつくわ」
「結婚しましょうか?」
「……は?誰と?」
「僕と」
彼女はきょとんと…目をまん丸にさせて、口をぽっかりと開けている。でもそれは、一瞬で疑いの表情へと変わった。
「……なによ、そんな言葉には引っ掛かんないんだから。どうせまた私をからかって面白がってるんでしょ?アンタはそういう男よね、昔から」
「からかってなんていませんよ」
「そんなの、信じられないわ。アンタはいつだって、私の反応を見て面白がってるだけなんでしょ?今回だって、絶対そうに決まってる。信じたりなんかしないんだからっ!」
「強情ですねぇ…」
僕は、いつまでも口が減らない彼女を抱き寄せた。
胸元に押さえつけて、耳の近くで囁く。
「今回は本気です。初見さん、僕と結婚しましょう。YESと言うまで、離しませんよ?」
「………」
「どうしたのです?何か、言ってください」
「……ムカつくわ」
またそれですか。
「だいたいアンタは、やること為すことメチャクチャなのよ。アンタには、順を踏もうとかいう気は無いわけ?普通、プロポーズの前に『付き合ってください』とか言うのが妥当でしょ?」
なるほど、そういう事ですか…まったく貴方は、素直じゃない。
「では初見さん、僕と付き合いましょう」
「イヤよ。なんで私がアンタなんかと…イヤよ、絶対イヤ!」
……でしょうね。
貴方なら、そう言うだろうと思っていましたよ。
「それなのに…」
……ん?それなのに?
「なんでこんなに嬉しいのよ」
怒っている様な口調で話すくせに、彼女の声はひどく震えている。
その違和感に少し体を離すと、彼女は唇を噛み、瞳からは大粒の涙を零していた。
あぁ、やはり貴方の反応は最高です。
相変わらず…とても可愛らしい。
僕は涙に濡れるその頬に、優しくそっとキスを落とした。
そして、どちらからともなく唇を寄せ合い、きつく抱き合う。お互いの気持ちを、確かめる様に……
初見さん、覚悟していてくださいね。
例えこの後、貴方の気が変わったとしても…僕には、貴方を手放す気なんて有りませんから。
逃げられるものなら、逃げてみてください。
絶対に…逃がしたりなんかしません。
貴方をずっと縛り続けてみせます。
一生…僕の元から逃げられない様に……
頭上からは、このタイミングを見計らっていたかの様にはらはらと…今年最初の雪が降り始めていた。
− FIN −