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不確かなモノ
【大人 恋愛小説】

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確かなモノ-7

「霜村さん、私が説明します。実は今日、私、彼にプロポーズされたんです。でも彼、指輪とか選ぶの苦手で…それで更砂を付き合わせたんです」
「ちょっと、加代さんっ!」
「更砂、ムキにならないでちゃんと霜村さんと話した方が良いよ?だって今の霜村さんって、どう見たって更砂のこと……」
その加代さんとやらが言いながら、僕の方をチラッと見る。
彼女が何を言わんとしているのか、その仕草だけで容易に想像が出来た。
この話の流れは…あまり僕としては、喜ばしくないですね。

「加代さん…と言いましたっけ?そろそろ二人にして頂けませんか?」
「あっ、そうね。ゴメンなさい。じゃぁね、更砂。またね」
「あっ、待ってよ、加代さんっ!」
加代さんは振り返らずに、真っ直ぐ男の元へと駆けて行った。
ふぅ、危ない危ない。
余計な事を他人の口から初見さんに吹き込まれては、困りますからね。


「どうしたのですか、初見さん?」
初見さんは茫然自失で、加代さんが走り去った先を見つめている。
あまりにもピクリとも動かない彼女が心配になって、僕は回り込んで顔を覗いた。
その瞳は、遠くなる二人の背中をまっすぐ見つめたまま…彼女の心の中にある感情を、そこから読み取ることは出来ない。

「なんか…羨ましいなって、思って……」
「羨ましい?あの二人が…ですか?」
「うん。幸せそうで…羨ましい」
彼女は視線を動かすことなく、ぽつりぽつりと呟いた。
何故だろう…嫌な予感が胸を掠める。

「まさか、初見さん…あの男性のことが好きだったのですか?」
考えるよりも先に、言葉が勝手に口を突いて出ていた。
僕の言葉に、彼女はハッとした様にこちらへと視線を向ける。
「そうじゃなくて…」
「そうじゃなくて?」
「憧れ…みたいな感じかな。あの二人みたいな恋愛って、しばらくしてなかったなぁ…って思っちゃったの」
そう言って彼女は、また二人の方へと視線を戻した。慈しむ様に、目を細めて……

「そう、ですか」
なんだ、良かった…って、どうしてしまったんでしょうね、今日の僕は。
つい『フッ』と自嘲が漏れる。
必死に街中を探し回ったり、彼女の言葉や仕草に心乱されたり…普段の自分では、絶対に考えられない行動だ。
おまけに、真偽が分からない言葉にあからさまにホッとしまうなんて、情けないにも程がある。
まったく、僕としたことが…余裕が無さ過ぎですね。


「でも、よくよく考えてみれば……それもこれも、霜村のせいなのよね。アンタのせいで、私の恋愛はメチャクチャじゃないの!どうしてくれんのよっ!?」
……はい?
つい一瞬前まではしおらしかったのに、目の前の彼女は、いきなり眉間にシワを寄せて語気を強めた。
「普通に人を好きになって、付き合って結婚して…そういうの、アンタのせいで出来なくなっちゃったじゃないのよっ!ホント、アンタってムカつく!」
まぁ、初見さんらしいといえばらしいのですが…貴方の口からは、僕への嫌味しか出て来ないのですか?


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