信号が変わったら-2
彼女は美優のように透き通る白い肌ではなく、学生時代に部活で日に焼けた肌をしていた。
そうだ‥‥。
俺が樹梨を初めて見たのは恋に落ちたのは彼女の日に焼けた肌を見たからだ。
高校最後の夏の総体。
部活に入っていなかった俺は強制的に応援に参加させられ、ほとんど友達と無駄話をしていた。その中の一人が樹梨に気付いた。
誰とでも別け隔てなく接する彼女は友達が多く、知り合いも多かった。
当時、女遊びが激しかった俺のことをあまりよく思ってなかったのだろう。
俺は樹梨と話したことがなかった。真面目に部活に取り組んでるヤツなんて俺の守備範囲外だった。
たまたま目に入った光景に俺は吸い込まれた。
陸上競技場のトラックで肩から肘に流れる汗が眩しくて、スパイクのタータンをえぐる独特の音が耳についた。ゴールラインを思いっきり駆け抜ける君に目を奪われた。
そうだ。
最初に好きになったのは俺の方だった。
あれから卒業式に思い切って俺から告白したんだ。
それなりに整った顔をしていたせいか自分から言わなくても女が寄ってきたから初めての告白だった。
どうして俺は樹梨を手放してしまったのだろう。
あんなにも一緒にいたのにあんなにも愛していたのに今でも‥‥
こんなにも‥‥
愛しているのに‥‥。
こうして今日も会社からわざわざ遠回りまでして、この駅を利用しているのが何よりの証拠だ。
もう一度、なんとかして彼女に逢いたかった。
もう一度、逢ってこの腕に抱き締めたい。
もう一度、あの頃に戻りたい。
車のクラクションと共に目に入った光景に俺は吸い込まれた。
あの時と季節は違うけど‥あの時より俺らは大人になってしまったけど‥
相変わらず俺は君を愛しているから‥
あの時と同じように俺はまた君に目を奪われているんだから‥‥
戻れるかもしれない。
止まっていた足を信号の色が動かした。
〜fin〜