粉雪-2
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「積雪予想50センチ!?最悪ー」
隣の部屋で天気予報を見ているらしい。
ざわざわと人の声がする。
「去年もこの時期にすごい降ったよな」
「そうそう、あれもすごかった」
「帰れないかと思ったよな」
−あの日、バスはこなかった。
雪による渋滞のせいで。
帰る道に私の足跡がうっすら残っていた。
今にも転びそうで、歩幅もばらばらだ。
その上をいつのまにか変わった粉雪が覆っていく。
視界の悪い中、私は携帯をとりだした。
着信はナイ。
−きっともう二度とナイ。
震える指で電話帳から削除した。
歩きながら声をあげて泣いた。
でも、誰も私に気付かない。
下を向き足速に通り過ぎていく。
私は立ち止まり、目を閉じて前を向いた。
顔に当たる無数の雪が涙のあとにとけていく。
サラサラという音がいつまでも耳に残る。
サラサラ…さよなら…
−
今も忘れられないけれど、後悔はしていない。
立ち直るまで時間はかかったけれど、充実している。
でも、もしあのとき雪が降らなかったら…。
どうしても考えずにはいられない。
きっと毎年、私は思い出す。
−でも大丈夫。
そう思えるようになったのは、時間のせいだけじゃない。
だから伝えて。
たった一粒だけでいい。
彼の頬を優しく通り過ぎて。
サラサラ…さくらさくら…
穏やかな春の訪れを教えて−。