わたしと幽霊‐痛み‐A-3
「あはははは!可愛いわねぇ、あなた♪」
あたしの前の席で、クラスの子達と楽しげに談笑してる彼女の横顔をぼんやりと眺める。
『お前は知らない方がいいだろうな』
まるで釘を刺すような高谷さんのあの言葉。
楽しげな更紗さんの様子。
あたしの中でその二つの表すところがイマイチ合致せず、何だか消化不良を起こしてる。
ん〜…別にあれ以来…何の毒もないし。
逆に、彼女のあっけらかんな明るさで、クラスの雰囲気よくなったよーな気もするし。
やっぱ…飽きるまで待つしかないのかな…??
大人の色気満載の更紗さん。
でも子供みたいにすぐ拗ねて感情の変化の激しい更紗さん。
悪い人じゃない。
でも…亜子のためだから。
…うん。
――今日の放課後にしよう。
あたしは一人で頷いた。
そして終業のチャイムが鳴り終わった瞬間。
「んん〜〜…」
やたら色っぽい声で伸びをして、立ち上がる亜子。
16歳の素振りじゃありませんから…
密かに脳裏でツッこんだ後ろのあたしを、ゆらりと見下ろす亜子。
なぜなら、あたしが亜子の腰のベルトをがっちり掴んでるから。
「な、何よぉ…もう変なコトしてないんだから文句ないでしょお?」
更紗さんが潜め声であたしに囁く。
「あ、あのね。今日の放課後話したいコトあるんだ。暇作ってほしい…かな?」
遠慮がちに微笑むあたしを、一瞬だけ真顔で見つめた彼女は、素直にとすん、と椅子に座る。
「あぁら、恋の悩みならお姉さんに任せなさいな♪」
髪をかきあげ、少しずつ教室から姿を消していくクラスの皆に手を振りながら、あたしに向かって片目をつぶった。
そうじゃないんだけどね…
あ、窓際に立ってた高谷さんがジト目でこっち見てる。(汗
頭をからっぽにして、近くに寄ってきた高谷さんに読まれないようにしながら。
教室から誰もいなくなるのをあたし達はじっと待った。
彼女…男の子と一緒にいるときが多いから、女の子が苦手なのかな、とか思ってたけどそうじゃなかったみたいで。
「ねぇ、アケミ。あんたは好きなコっているのかしら?」
待ちながら、更紗さんが艶っぽく聞いてくる。
女同士なのに、しかもずっと見てきた親友のいつもの顔なのに妙にどぎまぎしてしまった。
「えと…今んとこいないかなぁ」
相手が大人の女性という安心感もあって、あたしは照れながらもそんな話に乗り始める。
「あらつまんないわぁ…それって、単に好みのコがいないの?それともあなたが幼なすぎるのかしら?」
「後者だな」
すかさず口を挟む高谷さん。
(ひどっ!男の子はあっち行っててよぉ!)
あたしはぷうっとむくれて高谷さんの腕をはたく。
それを見た更紗さんが目を丸くすした。