SLOW START X〜田山拳〜-1
最近あいつの様子がおかしい。
会社の後輩、晶。
気になり出したのはいつだったか…
初めてあいつが気になったのは入社したての頃…ミスをして部長に呼ばれた時。
普通の女子社員なら泣いているであろう程の大声で部長に怒鳴られていた。
…あ〜ぁ。あいつも泣くぞ〜うぜぇなぁ女は…
俺は昨晩、彼女と喧嘩して少し大声を出して怒鳴ってしまった。
悪いのは彼女。なのに彼女は泣きだし俺はどうしていいか解らずとりあえず謝りそのまま家へ送り届けた。
自分が悪いのにちょっと怒鳴られるとすぐ泣く。
どんなに美人で羨ましがられても俺にとって女はいつも面倒な存在な気がしていた。
……あれ?
いつもならグスグス聞こえてくる頃なのに部長の怒鳴り声しか聞こえない。
俺は気になり、用はないが部長の後ろにある棚に向かい必要のないファイルを手に持ち振り返る。
「ぷっ!」
歯を食いしばっていた。
その女子社員は眉間に皺をよせ、泣くのを必死に耐えてひどい顔になっている。
思わず笑いそうになった俺はファイルを見る振りをして自分のデスクに戻った。
しばらくすると説教が終わったらしく戻れと言われていた。
「すみませんっした!」
女子社員は大きく頭を下げ自分のデスクに戻っていった。
…あんな女初めて見た。おもしれぇ…
その日から俺は何かと晶の世話を焼いた。
二人で飲みに行ったりもした。最初は男同士のような舎弟のような気がしていた。
あいつは泣かない、馬鹿な話しも出来る。
いつのまにか彼女といるより楽しくなっていた。
俺は彼女に別れを切り出した。円満には別れられなかったが仕方ない。
ある日、同僚が俺に聞いて来た。
「田山ってあの晶って娘と付き合ってんの?」
「は?いや、あいつは後輩だけど」
「よかった。俺あの娘行ってみようかな〜簡単に落とせそうだし」
俺はそいつの胸元につかみかかって殴り倒していた。
そして気付く。
…あ、俺あいつが好きなんだ…
それからは簡単だった。
あいつに近付こうとする輩を追い払いあいつのミスをカバーした。
こんなに人を好きになったのは初めてだった。
好きだから…好きすぎてそれ以上は出来なかった。