SLOW START X〜田山拳〜-4
「っあきら!!」
晶は気付かずドアが閉まりタクシーが走り出す。
俺は追い掛けた。
車を走って追い掛けるなんて無駄な事は解っていた。
けど走らずにはいられなかった。
足が縺れつまづく。
「っはぁはぁ…あ…きら」
息が切れてその場にしゃがみ込んだ。
体が重い。
部屋に戻るとまだ晶の匂いが残っていた。
シャンプーの匂いのする香水…確か晶がやっと手に入れたと喜んでいた。
もうあんな風に笑って話し掛けてくれないかもしれない。
ポタッポタポタ
床にこぼれたのが自分の涙だと気付くのに時間がかかった。
…泣くのなんて何年ぶりだ
「っは…馬鹿過ぎる」
俺は馬鹿だ。
誰かに晶を取られる恐怖から晶を力で自分のものにしようとした。
いつのまにかテレビには深夜の若手芸人の番組がやっていた。
若手芸人のネタに笑う観客が映る。
その笑い声はあたかも俺を笑っているような気がした。
…晶…ごめん…
本編へつづく