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Am I HAPPY
【悲恋 恋愛小説】

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Am I HAPPY-1

 カーテン越しだと言うのに、朝日が僕の目に向けて強烈な自己主張をしている。
 眠い目をこすり枕元の時計を確認すると、午前五時。普通に寝れた自分に驚いたが、今日はまだ、起きたくはなかった。
 布団を頭から被り最大の敵、日光を沈黙させるとすぐに夢の世界に再出発する…

 …そこは光に満ちた闇夜の空に、仄暗い朝日が昇る海の底。ここは明日訪れる、懐かしく、そして見覚えのない生まれ故郷。
 僕は目的地を目指してただひたすら彷徨う旅人。
 すべての風景は常に揺らぎ、限りなく確固たる存在。
『きみは誰?』
 全であり一、そして無であり有。もしくは夢。
『ボクは君の夢?キミは僕のユメ?』
 分からない。なにも分からない。
 僕は溶けていく。広大な無へと。
 そして、再び生まれ出で、一瞬の永遠を奏でる…

「…くん、ねぇ鷲尾くん!」
「…うあ…?」
「次、本文の和訳くるよ」
「え…?」
 周りを見回すと、学校のようだ。しかも苦手な英語。
「寝てたから和訳分かんないの?」
「あ…う、その」
「しかたないなぁ。私の見せてあげる」
 そう言って、笑いながら自分のノートを差し出す少女。
 おかしい。授業中なのに人がいない。教師も含めて。
 それにこのノートの持ち主、隣に座っている少女は…
「どうしたの?」
「あ…ぇと」
「なぁに?」
 疑問を伝えたいのに言葉がでない。
「う…あぅ」
「ふふ、変なの」
 …彼女が笑った。疑問を早く…なにが疑問なんだっけ?
「あ…なんでもない…気にしないで」
「うん。鷲尾くんが変なのはいつも通りだしね」
「うあっ…ちょっと、てゆーか、かなりショック」
「あははは」
 彼女がまた楽しそうに笑う。その笑顔を見ていると、幸せな気分と、少しの胸の痛みが沸き上がる。
「笑いすぎだよ!」
「はは、はぁ、だってすごい落ち込み方なんだもん」
「まったく…」
 今となっては、もう見ることのできない笑顔…見ることのできない?
 こうして、目の前で笑っているのに?
「ねぇ、鷲尾くん!見てて」
 見ると、キレイにスリーポイントシュートを決める彼女。
 いつの間にか、二人で無人の体育館に。
 いや、ここに移動した記憶はある。でもいつの間にかだと、そう感じる。
「見た見た!?私すごくない?」
「見たよ。僕には真似できないね」
「鷲尾くん、運動音痴だもんね」
「なんだと〜!」
「悔しかったら鷲尾くんも入れてみなよ」
 なぜだろう。今、笑っているのに、楽しいのに…
「…どうしたの?」
「え…?」
「鷲尾くん、なんで泣いてるの…?」
 確かに、僕は泣いていた。頬を幾筋も流れていく涙。
「あれ…なんでだろ?あは…変、だね」
 一度流れはじめた涙は、自分では止めることができなかった。
「はは…なんで…っく…あは、ははは」
 棺の中の彼女は何も言わず、ただ静かに目を閉じている。眠りよりも深く、静かに。
 僕はそんな彼女の棺の前で、ただ阿呆のように泣き続けた。昨日の夜と同じように。
『私は…鷲尾くんがいるこの世界が好きだな…あはは、なんか照れくさいね』
 最後に聞いた、彼女の笑い声を思い出しながら。

 涙が止ったときにはすでに、彼女も、彼女の棺も消えて、ただ不明瞭で鮮やかな世界が広がっていた。
『ボクは誰?』
 ……。
『ボクは君の夢?キミは僕のユメ?』
 …僕はここにいる。あの楽しかった思い出は、夢なんかじゃ決してない。
 だから僕は夢なんかじゃない。これは誰にも否定させない。
『ボクはユメ?』
 …そうなのかもしれない。僕が作った都合のいい世界。でもわからない。
『それなら、もっと楽しい世界を作ってあげる。彼女と一緒にいられる世界』
 ……。

 …カーテン越しに日光が入ってきて、その眩しさに目を覚ます。
 ちょうど一年前のように枕元の時計に手を伸ばす。
 あの時、僕は夢の誘いを断った。
 もし夢に逃げたりしたら、彼女はきっと怒っただろう。だから僕は、彼女が好きだったた現実で頑張ることにした。

 時計を見ると午前五時を指していた。
 僕はベッドを抜け出して、カーテンを開けた。そして、夢を振り払うように思い切り背伸びをした。

 …いつか、彼女が好きだったこの世界で胸を張って『幸せです』と言えるように…


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