Kaleidoscope kurebaiiyo-1
高3の夏、家族が一人減って三人増えた。
母が再婚するのだ。父と離婚した直後に。
よく分からないうちに父が出ていき、あたしと妹の弥玖(みく)と母が残った家に、見知らぬ男とその子供が越してきた。
「あぁ、君が天梨(あめり)ちゃん?僕はお母さんとは大学の時の知り合いなんだ」
父とは全くちがうタイプだった。碓氷(うすい)恭介という名前のように全体的に色素が薄く痩せていた。髪はまだたっぷりあり、顔は笑ってるけど大きい眼が冷たく光っていた。はっと見てると逸らせなくなる感じ。だからあたしは一瞥だけして恭介のお腹の辺りに視線を移した。
「僕にも子供がいてね、」
そう、恭介は隣に並んだ息子を示した。
「この子は環、天梨ちゃんの二つ下。この子は嶺(たかね)、さらに一つ下。ほら、あいさつして」
二人とも、無言だ。あたしも何も言わない。
「今日から同じ家に住むんだから、仲良くしてよ?ってゆうか兄弟なんだから」
母が取り成すように言う。
「恭介、引っ越し祝いに何かおいしいもの食べに行きましょ、二人で」
母は父のことを名前で呼んだりしなかった。これは誰?
「環くんも、嶺くんも何かあったら天梨にきいてね」
二人が乗った車の音が遠ざかった。
ほんとうに唐突だった。
普通に仕事から帰ってきて、そのまま母は離婚届けを机の上に広げた。
最初はみんな信じられなかった。原因になるようなことがそれまでに起こったようには見えなかったから。
しかし母の決心は固かった。最初は楽観視していたあたしも、いい加減理由を尋ねると、
「家のなかに不満なんてないわ。決定的原因は外からやってきてしまったの」
と、意味不明な返答をよこした。
一ヵ月後、とうとう父が折れて、今に至る。
「新しい人たち」が来て今日が初日だ。しかも接点であるはずの二人も出掛けている。
そのまま仲良くテレビを見るわけにもいかず、あたしは自分の部屋に戻ろうとした。
「あ……の」
兄の方が口を開いた。
「俺らの部屋ってどこ、ですか」
「……弥玖、案内して」
弥玖が抗議の声をあげたが構わずリビングを出る。
「あ」 言い忘れていたことを思い出した。母に再婚相手に子供がいると聞かされた時から思っていたこと。
「あたし達は兄弟じゃない。そうだよね? だから仲良くしようなんて思ってないから安心して」
後ろ手でドアを閉めて自分の部屋にむかった。
兄の環は背が高く、ふわふわした頭から伸びた前髪が眼にかかっていた。弟の嶺は中学生らしく髪は短いが、あの時期特有の尖った目付きをしていた。環のことは以前どこかで見たことがあるような気がする。
チラッと2、3回視線をやっただけでわかったのはそれくらい。他のことは全て、さっぱり理解できなかった。
母の言う「決定的原因」は間違いなく恭介だ。でも、それは今までの家族を廃棄するほど魅力的なものだったの?
恭介だって、いきなり人の家にやってきて母を取り上げて……父親だって、
そこまで考えて、ほんの数週間前出ていった父のことを思った。