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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み4 〜夏一夜〜-6

「……ねぇ」
 快楽の頂点を極めた後の甘く蕩けた美弥の声は、耳触りが良過ぎて背筋がゾクゾクする。
「ん?」
 格別に優しい声で問い返すと、美弥は胸板に顔を伏せた。
「……やっぱいい」
 何かそんなに気に触る事があったのかと龍之介は内心で首をかしげたが、当人が伏せておきたいならそれで構わないだろう。
 二人はしばし、熱く火照った肌を触れ合わせたままでいた。
「……変じゃない?」
 聞き取れないような呟きに、龍之介は美弥を見る。
「何が?」
 美弥は龍之介の胸板に、頬をくっつけた。
「……ほんのちょっと触られただけで火が着いちゃうのって、変?」
 あまりにも可愛らしい質問に、龍之介は失笑する。
「……何笑ってるのよ」
 少し悩んでから尋ねた美弥としては、龍之介から笑われるというのはかなり心外な出来事だった。
「いや……ごめんごめん」
 顔を傾け、龍之介は美弥の顔を上向かせてその唇をついばむ。
「そんな事を気にしてたなんて、知らなかった」
「ッ……!!」
 間近に見る龍之介の端正な顔立ちに、美弥は不覚にも胸をときめかせてしまった。
 いい加減、見慣れて来たはずの顔なのに。
「い、いいよ、もう……」
 胸のときめきを知られたくないと思い、美弥はうつむいて胸板に再び頬をくっつける。
「変だなんて思わないし、むしろ嬉しいよ」
 そんな美弥の事を、龍之介は優しく抱き締めた。
「……ほんとにぃ?」
 疑わしげな美弥の声に、龍之介は抱き締めた腕の力を強める。
「本当。信じられない?」
「……んん」
 美弥は呟き、龍之介の体へ腕を回した。
「本当に……」
 ふ、と龍之介がため息をつく。
「何でこう……こんなに可愛い事を言ってくれるのかなぁ?」
「ふぇっ?」
 龍之介は体をずらし、美弥の事を覗き込んだ。
「おかげで我慢がききません」
 ちゅっと音を立てて、軽いキスが降って来る。
「ん……」
 と、その時。

 ぐううぅぅ〜

 甘い雰囲気も何もかも吹き飛ぶ色気のない音が、龍之介の腹から聞こえた。
「……ぷっ」
 思わず、美弥は吹き出す。
「ご飯にしよっか?」
「……ん」
 赤面した龍之介は、ただそれだけしか言えなかった……。


 河川敷の花火大会・神社のお祭り・海水浴もしくはプール等々。
 休みの期間中は夏ならではのイベントが目白押しで、美弥としては目一杯楽しみたい所である。
 ただし……大前提の『龍之介と一緒』という所にミソがあった。
 果たして、女性が泣く程苦手な恋人を人込みの中へ引っ張り出せるのか。
 そこら辺も加味して、二人のデートはお家でいちゃいちゃまったりするのが主流なのである。
「大丈夫。行こう」
 夕食後に美弥がさりげなく切り出すと、龍之介は頷いた。
 どことなく青ざめて悲愴な顔付きに見えるのは、たぶん気のせいである。
 少なくとも美弥は、そう思っておく事にした。
「ほんと!?ありがとう!!」
 言って美弥が抱き着くと、龍之介はでろでろと相好を崩してしまう。
 爽やかで凛々しい顔立ちがでろでろに溶け崩れると割と情けない顔になるが、嬉しさ一杯の美弥はそんな事を少しも気にしなかった。
「じゃあさ、まずは月末の花火大会行こ!!」
 はしゃぐ美弥を見て、龍之介は崩した相好を元に戻す。
 美弥のためにも、もっと外でのデートを増やすべきだと痛感したからだ。
 外でのデートというだけでこれ程喜んでくれるのだから、女性が苦手なんぞと泣き言なんか言っていられない。


 そして、花火大会当日。


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