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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Dawn-2

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大和大和(だいわ やまと)は、人間の中でもどちらかと言えば『オチコボレ』に分類されるタイプの男だった。国を背負う人間にと、親が姓と重ねてつけた大和(やまと)の名は、その持ち主によって本来の威光を失おうとしていた。夢を見失い、大いなる挫折感に未来を塗りつぶされてしまった男。しかし、そんな挫折すら現代を生きる人間にとっては、誰もが一度は経験する当たり前の出来事で…いつまで経ってもそこを通過できない彼は、日々自分が腐っていくのを実感しながらまだ前に進めずにいるのであった。
「あーあ。」
次に車検が切れたら、公道を走ることを諦めざるを得ないポンコツ車の窓から、大和は吸い殻を投げ捨てた。中古のオープンカーで、空色のボディーと本革の内装は、彼の親が彼に譲った時にはすでに手に負えないほどくすんでいた。車よりもバイクのほうが好きだったが、とある時期を境にぱったりと乗らなくなった。過去との決別を図るための苦渋の決断だったが、決別したい過去はまだずるずると彼の心の中に残っているのだから意味があったとはいえない。
「…ちっ。」

信号の赤がなかなか変わらない…そんな瑣末なことに苛立ち、舌をならす。やっと青になったのに、前の車はちっとも進まず、黄色に変わった時ようやく3台分前進した。大和の車が交差点を通過するには、あと2回は青信号を見送らねば。ダラダラと横断歩道を渡る女の群れに虚ろな目を向ける。今し方彼が助手席に乗せていた女に「あっしー」扱いされ…そもそも、「あっしー」なんて時代遅れも甚だしいが、冴えない彼のこと。不名誉な称号が一つ増えた所で大した違いは無い。

「伸び悩み」、「期待はずれ」…そして、「落ちこぼれ」…。こんな言葉を生み出した先人を恨みながら、それでもその言葉がどれも自分に当てはまることに、納得しないわけには行かないのだ。

―お前にもう少し分別があったらねぇ。

お袋に何度そういわれただろう。問題は分別などでは無かったのだ…悪い時期に、悪い場所に居て、悪い奴らに目をつけられた…そしてたまたま迷い込んだ所の居心地がよかった。それだけの話。そう、何度自分に言い聞かせてみても、結局は違うと知ってしまっている…自分の中でしぶとく生き残る、良心とか、意地とかいうやつのせいで。


父親に頼まれた用事のついでに、女を乗せて街中まで…大学にもろくに顔を出さない彼に、人からの頼みを断る理由も無かった。

―まったく、冴えない毎日だ。

だが、ここまではほんの瑣末な、些細な不満。




空気を裂く、ひゅう、という音。
次に振動がやってきた。
そして再び音。



「わぁっ!?!」

大きく揺れる車体から投げ出されずに澄んだのは、シートベルトのお陰だった。ルーフがあったなら頭をぶつけていただろう。彼は今ほど、この車に感謝したことはなかった。

「な、な…」

何だ?投身自殺か??

「・・・!」

目の前に何かがいる。上から一直線に何かが落ちてきた。彼の車の、バンパーに。

バンパーは思い切りへこんで、もうどんな技術を以てしても元通りにならないほどに潰れてしまった…それほどの衝撃だったのに…普通の人間なら、そもそも体がちぎれずにいることのほうが不自然なのに、まだ…


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