夢視の姫-3
──このリアルか、アナザーリアルか──
少女は即答した!
────このリアルを、捨てます!
王子を、助けるために──!
男は、街中を歩いていた。賑やかな、しかし見慣れた街を。
過去は、もう捨てた。
失職し、離婚した彼は、やはり数年前もこの街のこの道を歩いていた。そこで出逢った少女─ペシェ─は、彼をある鏡の世界へ導いた。そこで彼は、究極の二択を迫られた。
偽りの幸せの中で生きるか、苦を乗り越えるか……。
そして、彼は、リアルに生き続けることを決めた。そうして、今、彼は真の幸せを手にしている。
仕事と、妻と、そして、この愛らしい娘。
名前を、〜桃〜ペシェという──
今、彼は街を歩いている。それは、彼が決断したからだ。弱さを、振り切ったからだ。
ペシェも、彼の決断が無ければ生まれはしなかった。
彼は、数年前、鏡の向こうの世界で、既にペシェと出逢っていた。そして、その少女に告げられた。
──この世界は輪廻──
──皆が、鏡の向こうへ繋がっている──
──助けてあげたい──
──だから、あなたには、この物語を、心から愛する誰かに伝えてほしい──
──わたしが視せて終わる物語なんて、つまらないもの──
そうして、男は案内人になった。
男が、もし鏡の向こうの世界で生きることを決めていたら……考えたくもない。
そう、鏡の向こうは虚像だ。その幸せ、快楽すらも偽りだ。
それを識っているから──
彼は、もう一人のペシェに、あの日と同じように物語を与えた。
夢の世界に生きていたつもりの少女に、リアルを視せた。
しかし、彼女は、鏡の向こうへと進んで行った。
彼女が今、どうしているかは識らない。考えるのさえ酷だからだ…………
だが、もし、鏡の向こうに生きているのなら、男はこう告げる。
──どうか、この物語を、君の心から愛する誰かに伝えてほしい──
妻とペシェが、男の腕を握った。
……どうだったかしら?
そう、夢に生きた少女は、あなたと同い年くらいの少女だった。だから、心はまだ未熟だったのよ。
……あら、またこんな時間よ。お嬢さん、今日はもうお帰りなさいな。
え?何か言ったかしら?
……ええ、大正解!
そうよ、こないだの物語の男とこの物語の男は、同じ人物よ。よく気付いたわね。……あら、簡単だったかしら?
……ふふ、あなた、本当に似ている…………いや、こっちの話よ。気にしないで。
それでは、賢いお嬢さん、あなたに、最期の謎を与えるわ。
──わたしは、誰でしょう──