夢視の姫-2
──貴方は、本当に姫なのでございましょうか──
それは、どういう意味か…………
それは、どういう意味か…………
それは、どういう意味か…………
──何を言っておられるのですか、紳士よ。妾はこの国の姫であろう──
平静を装った、明らかにぎこちない声で、姫は返した。だが──
──もう、やめないかね、ペシェ──
───────────っ!!!
〜桃〜ペシェと呼ばれた姫…………少女は、その意味が解らない。
ペシェは、確かに、少女の名だ。しかし、それはリアルの世界の名前であって、この世界の、この国の、この姫たる少女の名前ではない。なのに……彼は…………
──ペシェ、君は、どこで間違われたのか──
男は、鋭い眼光をギラつかせ、姫を睨めつける。
──ペシェ、この夢の世界に、君の居場所は無い──
すべて、この男には見破られていたのだ。
この世界が、少女の夢なのだと──
世界は、そして反転した────
気が付けば、そこはリアル…………見慣れた、少女としての、ペシェの部屋。
大きな鏡を覗き込んだ少女は、目を疑う。
──今晩和──
あの、男が、後ろに、立っている……
少女は慌てて振り向く。しかし、鏡に映っていたはずの男は、そこには居なかった。
恐怖の中、少女はまた鏡を見やる。しかし、そこにはやはり、男は立っていた。
そこで、ペシェは気付く。そう、鏡の向こうの世界が、左右反転していないのだ。
つまり、その向こうは──
──もう一つのリアル──
男が発した言葉は、少女をますます混乱させた。いや、本当は解っていた。ただ、解りたくなかった。
──ペシェ、君は、リアルとアナザーリアルとの狭間で彷徨っているのだ──
そうだ。
解った。
思い出した。
鏡の向こうの世界。
それは、アナザーリアル──もう一つの現実──世界だ…………
この、ペシェが居るリアルは、鏡越しに隔てられた世界に繋がる世界。そして、鏡の向こうのアナザーリアルも、また世界。
彼女は、二つの現実を行き来していたのだ。
そして、向こう側のアナザーリアルに、もう彼女の居場所は存在しない……
──戻りたいかね──
男は訊く。すべてを識っているから……
──還りたいかね──
男は訊く。すべてを識ってしまっているのだから……
──はい──
少女は……ペシェは、返事をした。力強い、信念の言葉で──
──では、選びなさい──
短い沈黙…………そして