Ethno nationalism〜激突〜-6
「あとはアレさえなければな……」
サタニアフが指差した先には、あるべきはずの物が無かった。窓が。
「相変わらずの爆弾騒ぎか…」
マッケイは笑みを浮かべてサタニアフに聞いた。
「ああ、先日も2ブロック先のパブがやられてな。IRAが犯行声明を出した……まったく、奴らのお陰でメシを食うのも命がけだ」
「じゃあ、これが〈最後の晩餐〉になるかもな」
自分のジョークが余程面白かったのか、マッケイは声を挙げて笑い出した。すると、周りの客から冷たい視線が一斉に集中する。
慌てて口を閉じるマッケイ。そして、周りに愛想笑いを浮かべると、
「申し訳ない。あまりに美味しくて、つい…」
その間、マリアはひと言も発せず食事をしていた。その目は何か思いつめたように。
霧雨は夜になっても止む事は無く、緑豊かなウィンザーを潤していく。細かい雨粒は家の壁にまとわり付き、水滴となって地面にしたたり落ちる。
窓から入る外灯の光が、わずかに居間を照らす。そんな薄暗い室内で、藤田は座り込み、生気の無い目で一点を見つめていた。
(あと2日だ。あと2日あれば、何か……)
焦れる気持ちに反するように、頭には何も浮かばない。マッケイの電話から数時間が過ぎていた。
(奴らなら、相川を佐伯のように殺すのも……!)
瞬間、藤田の頭の中がスパークした。真っ暗な部屋で勢い良く立ち上がり、言い放つ。
「奴らは相川を捕えていない!」
左手の掌を右手拳で叩く。〈パアァンッ〉と音が響く。
(相川を捕えたとすれば、佐伯と同じ目に遇わせれば済む事だ。居場所まで分かったオレを、生かしておく必要は無い……)
藤田の目に生気が戻り輝き始める。心無しか頬も紅潮していた。
藤田は、居間の照明スウィッチを入れると、受話器を取って電話をかけ始めた。
(零時か……すると日本じゃ朝方だな…)
しばらく続くコール音の後、女性の声が聞こえた。
「ハイッ、相川です」
電話を取ったのは、相川の女房、幸子だ。
「幸子さん!藤田です」
明るい幸子の声に、藤田の声も思わずオクターブが上がる。