Ethno nationalism〜激突〜-5
「止めとくよ。佐伯のようにはなりたく無いんでな」
藤田の答えに、受話器の向こうから笑い声が聞こえてきた。
「ハハハッ!……確かにそうだな…だが、私もそんな悠長な事は言ってられないんだ」
「どういう意味だ?」
藤田の問いかけに、男はひと呼吸おくと、
「…よく聞いてくれ。君の友人であるアイカワを預かっている」
「なんだと!」
「明後日の午後3時に、ハイドパークのサーペンタインレイクに来てくれ。
大事な友人を失いたくなければな……」
それだけ言うと、男は電話を切った。藤田は素早く相川の携帯へ連絡を入れた。しかし、応答不通とコールバックが流れるだけだった。
藤田はゆっくりと受話器を戻しながら考える。
(…何か…何かあるはずだ……)
彼は居間の絨毯にうずくまり、何かをたぐり寄せようと思いを巡らせた。
ーベイズウォーターー
夕方から降り出した霧雨が、街並みを煙に包んでいく。スーパーマーケットやパブの看板を照らすライトも、霞んで見える。
マッケイとマリアは、サタニアフの運転するローバーで、ホテルを訪れた。
2人が降りるとサタニアフが、
「3007号室のスイートだ。君の名前で取ってある」
「久しぶりにメシでもどうだ?」
マッケイの誘いにサタニアフは頷く。
「そうだな」
3人は近くのレストランに入った。
ラムステーキを口に運ぶマッケイ。軽く頷くと、
「なかなかイケるな」
サタニアフも相づちを打って、
「ここは以前、サッチャーや、ブレアも訪れてたらしい」
「どうりで……イギリスの場合は、入るレストランを間違うと最悪だからな」
「まったくだ…」
マッケイは辺りを見渡すと、
「それにインテリアも良い。これなら繁盛するハズだ」
マホガニーの丸テーブル。吹き抜けのように高い天井。淡い色の壁際にさりげなく飾られた調度品の数々。
その広いフロアに並べられたテーブルは、客で埋め尽されていた。