Ethno nationalism〜激突〜-22
ーエピローグー
ヒースロー空港。マッケイとマリアは、出国ロビーの待合室のベンチに座っていた。
「マリア…」
マッケイが尋ねる。だが、マリアは俯いたままだ。
構わずマッケイは続ける。
「君のチーフ、カシム・アミットと先日、意見交換した。君の精神状態についてだ」
マリアは顔を上げてマッケイの横顔を見つめる。
「その結果、君に必要なのは、休暇ではないとの結論に達した」
その言葉に、マリアは半ば諦めたようにうなだれる。しかし、今度はマッケイがマリアを見つめながら続けた。
「マリア。いや、ナターシャ・クチンスカヤ……君には無期限で、テルアビブの学校へ行ってもらいたい」
その言葉に、マリアは信じられないと言った表情で、マッケイを見つめる。それを察したのか、彼はマリアを諭すように、
「新しい任務だ。未来のイスラエルを背負う子供達を輩出してくれ」
マッケイの言葉に、マリアは両手で顔を被うと、
「…ありがとう。ミスター・マッケイ。……」
「…いや、君は国家のために5年間を犠牲にしてくれた。それに報いるのは当然の事だよ」
そう言ったマッケイの表情は、どこか寂しそうだった。
ー福岡、浄水通りー
夕方から降り始めた今年の初雪は、夜になって降りを強めていく。
仕事を終えた寺内親子は、慌ただしく晩の準備をしていた。
慎也は風呂場の掃除を。静代は夕食の準備に忙しい。
藤田が静代の元を離れてから、6日間が過ぎた。
人は哀しみを忘れ去るために、何かに没頭する事がある。静代は、仕事や家事に没頭する事で、藤田の事を忘れ去ろうとしていた。
そんな娘の姿を慎也は不憫に思えてならないが、彼には見守る事しか出来なかった。
そんな時だ。玄関のドアーフォンが鳴った。
(……?)
静代はキッチンから小走りで廊下を抜けると、玄関を開けた。
「は〜い。どちら……!」
静代は途中で言葉を失った。
「…すまない。こんな時刻に」
そこには、すまなそうな顔で藤田が立っていた。
言葉も無く、ただ藤田を見つめる静代。