Ethno nationalism〜激突〜-2
ーヒースロー空港ー
アラン・マッケイとマリア・コーエンは空港出口からタクシー乗り場へと向かっていた。
名物のロンドンタクシー。通称ブラックキャブが何台も並んでいる。
「雨に見舞われそうだな……」
サングラス越しに空を眺めるマッケイ。この時期、イギリス特有の厚い雲が低く広がり、今にも泣き出しそうだ。
マッケイの携帯が震えだす。
「マッケイだ…」
相手はキャロルだった。
「例の件は成功しました」
「分かった。引き続き、もうひとつも頼む」
それだけ言うと携帯を切って、ブラックキャブに乗り込んだ。
「オールドブロードstへ…」
ブラックキャブはゆっくりと走り出した。
夜のブリティシュ・グラフィックス社。
チャールズ・オブライエンは、忙わしなくパソコンのキーボードを叩いている。来月号発行まで2週間を切っているのに、不手際があったため差し替え原稿作成の真っ最中だった。
「ジェームズ!」
背後から声が掛かる。
オブライエンが振り向くと、同僚のジム・アボットが近寄ってくる。
「なんだ?ジム」
「ナオの原稿が上がったんだ。見てくれ」
アボットは10枚ほどの写真入り原稿を、オブライエンのデスクに置いた。
「どれどれ……」
オブライエンは、頭に乗せた眼鏡を掛けると原稿に見入った。それを心配気な表情でアボットは覗き込む。
数分後、オブライエンは満足そうに頷いた。
「うん、いい出来だ」
その言葉にアボットはホッと胸を撫で降ろす。
「ところで、ナオは今こっちに来てるんだろう?」
問いかけに、オブライエンはキーボードを叩きながら頷く。
「ああ、ウィンザーにあるウチのアパートに居るよ。のんびりしたいんだろう」
「なるほど……」
アボットはニヤリと笑った。