Ethno nationalism〜激突〜-19
「よく聞け。今オレを殺せば、ベイルートでの事件が世界中に知れ渡るぞ」
「なんだと?」
マッケイが、初めて興味深げな表情を見せた。
「お前達は2日間、オレを見失ったな。その間、オレが何をしていたと思う」
「…ウィンザーに逃げ込んでたんじゃ無いのか……」
今や、話のアッパーハンドは藤田が握っていた。
藤田は嘲笑を向ける。
「お前達の監視から逃れ、抗チオ〇ンタールまで用意したオレが、次の手を準備してないと?
アンタ、余程のオプティミストのようだな」
マッケイは藤田を睨みながら、
「だったら!!…見せてもらおうか。貴様のカードを…」
藤田は呼吸を整えると、語り始める。
「ウィンザーに行く前、オレはロンドンにある日本大使館員の〈ある人〉にビデオテープを渡した。
そして、1日1回、オレから連絡を入れる事になっている。もし、これが途切れた場合、内容を公表するよう頼んである。
いくらお前達でも、大使館員を殺す訳にはいくまい」
藤田の言葉を聞いたマッケイは、ニヤリと笑った。
「どんな手かと思ったら、とんだクソカードだな。他国の顔色を気にしながら行動する日本政府が、そんな大それた事をすると思っているのか?」
「誰が日本政府が発表すると言った?」
「なにっ!」
藤田はマッケイを見据え、ゆっくりと呼吸をすると、一言々を噛みしめるように言い放った。
「中東のCNNと呼ばれる〈アルジァジーラ〉に送るのさ」
藤田のカードに、マッケイは激しくうろたえる。
「ブラッフだ!!」
顔を赤らめ否定する様は、何かに訴えているようだ。対して藤田は冷静に言い放つ。
「ブラッフ?オレや友人の命が掛かってるのに、ハッタリで切り抜けるヤツが何処にいる。そう思うんだったら、その銃でオレの頭を撃ち抜いてみろ」
「仮に世界中に配信されたとしても、我々がどの組織か分かるものか!」
もはや、マッケイの思考は冷静さを失い、自分の喋っている意味さえ分からない状態だ。
藤田は最後のカードを斬る。
「ビデオテープと一緒に渡した紙がある。そこには、こう書いた。〈暗殺者はイスラエルの情報機関 モサドの仕業〉だと」
「…お前…何を言ってるのか、分かってるのか?」
藤田はマッケイからマリアに視線を移す。
「…お前は暗殺の間際、アビル達の耳元でこう言ったな。〈これでは同胞達が報われない〉と。そして、こうも…〈シャローム〉と…」
そして、再びマッケイを見ると、
「暗殺の鮮やかさ、この言葉。ベイルートであれだけの規模のオペレーションが出来るのは〈モサド〉以外に無いと」
見据える藤田。対するマッケイは顔を歪めて睨みつける。静寂が空間を支配する。