Ethno nationalism〜激突〜-17
「こいつぁ驚いた。まだ、そんな元気があるのか?大したヤツだ。この拷問で、何人ものアラブ人が耐え切れずにペラペラと喋ったものだが」
そう言って、深いため息を吐くと、
「ファイターであるお前に、敬意を払って拷問は止めよう」
(…いよいよ射つつもりか…)
藤田はカプセルを奥歯に乗せた。
マリアが再び近寄る。手には注射器が握られていた。
次の瞬間、右腕に痛みが走る。だが、それは先ほどよりもわずかだ。
(……!)
藤田はカプセルを思いっ切り噛んだ。口の中に甘い味が広がる。
〈ドクンッ!!〉
部屋中に響き渡ったかと錯覚するほどの鼓動と共に、藤田の心臓が脈動を速めていく。
「…ぐ…うぅ……」
激しい鼓動に合わせて血がたぎるような感覚が襲う。チオ〇ンタールのためか、意識が遠のきそうになる。
(…ダメだ……ここを耐えなければ…)
無意識に静代の顔が浮かんだ。あの日の夜に見せた、愁いと決心を混じえた顔が。
(…ぜ…絶対に…生きて帰る…)
身体の中で、チオ〇ンタールと抗チオ〇ンタールが、激しくせめぎ合い、互いが相殺され無力化していく。
少しずつ、藤田の身体が正常に戻っていく。
ゆらゆらと揺れる藤田の身体を見て、マッケイは完全に効いたと思ったのだろう。
「…そろそろ良いだろう……君の名前は?」
マッケイは、それまでの英語から流暢な日本語で語り掛けた。
(…ここは、オチたと思わせなければ……)
「……ふ…藤田……直…」
「君の職業は?」
「…フォト……ジャーナ…リスト…」
「取材で、1番印象的だったのは?」
「…イラクだ…クルド人を残虐する様は……地獄だ…」
答えに満足したのか、マッケイは大きく頷くとマリアに指示する。
「マリア。藤田の袋を外してくれ」
「エッ、しかし……」
マリアは戸惑いの表情を見せる。だが、マッケイはニヤリと笑うと、
「心配いらんよ。コイツはもう、チオ〇ンタールでオチた。知ってる事を喋りたくてウズウズしてるさ」
マリアは言われるまま、袋を外した。藤田の顔が露になる。
うなだれ、よだれを垂らしている。