Ethno nationalism〜激突〜-15
「彼に情報屋になるよう勧めたのは私だ。私の会社で学び、独立してからも、我々は佐伯に情報を与えてきたんだ」
初めて事実を知った藤田。佐伯の情報は、いつも早く的確だった。その事を考えれば、今、喋っている奴らが並の集団で無い事が分かる。
(こいつら、やはり情報機関か)
なおもマッケイは続ける。
「だが、佐伯は裏切った。金に目がくらんだのだ」
「…それは、どういう事だ?」
「約2年前から、佐伯は度々イランへ行くようになった。当然、我々はヤツの動向を探った。
すると1年後、イランとの売買契約を結んだとの情報が入った。
それからは、佐伯をマークしていた」
そこまで話して再び呼吸を整えると、少しトーンを落とす。
「約半年前、佐伯の買い付ける品が変わった。それまでは食料品や家電品だったのが、精密機械や集積回路を使った家電品を買うようになった。
そして今回、ヤツは決定的なモノを日本で買い付けた。我々は仕方なく佐伯をターミネートしたんだ」
藤田には見えていないが、マッケイは語りながら眉間に深いシワを浮かべていた。
「しかし、軍事転用が可能な品なら、アンタがどこかの新聞社にでもリークすれば済む事じゃないのか?」
藤田の問いかけに、マッケイは苦笑いを浮かべると、
「通常の兵器ならね」
「……なんだと?」
「佐伯が日本で購入していたのは、アルミチューブに小型モーター、それに先ほど言った品々だ。これが意味する結果は分かるか?」
「……?…」
「佐伯はイラン政府に、核を持つチャンスをもたらそうとしていたんだ」
「……!」
藤田は絶句した。それと同時に、にわかには信じられ無かった。
「…アンタはオレの知らない情報を持っているようだな。だが、オレの友人である佐伯が、そんな事に加担していたとは信じられない」
「確かにお前の言う通りだ。正確に言えば、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出すための装置。遠心分離機の部品を集めていたのだ。
イランは、そのプルトニウムで核兵器を作り、イスラエルの上空数百キロで爆発させる計画を立てたのだ」
「…高々度核爆発……」
藤田が小さな声で放つ。マッケイは頷くと、
「そうだ。爆発と共に降り注ぐ電子の雨にイスラエルのすべてのコンピューターはシステムダウンする。まったくの丸裸状態だ。
その間を狙ってイランはミサイルを打ち込もうとしているのだ」
「佐伯は、それを知ってて加担したのか?」
「それは分からん。だが、佐伯は部品を集める事によって1億3,000万ドルという法外な金を受け取る契約をイラン政府と交した」
「なるほど……」