Ethno nationalism〜激突〜-13
「こいつは驚いた。こんな旨いティーは初めてだ」
マッケイが目を丸くしてカップを見つめていると秘書は微笑みを湛え、
「キッシムのFOP(フラワーオレンジ・ペコー)です。お客様用ですわ」
「なるほど……私は紅茶にはまったく疎いんだが、この味は分かるよ」
感心しきりのマッケイ。秘書は微笑みを浮かべたままマリアを見つめると、
「マリア。あなたもいかが?」
「私はいいわ……」
マリアは、外を見つめたまま視線をこちらに向けようともしない。
気まずい雰囲気が部屋に漂う。
その時、場違いな軽快な音楽が部屋に響く。マッケイの携帯だ。
もどかし気に開くと通話ボタンを押した。
「…マッケイだ」
相手は抑揚の無い男の声で、
「回収に成功しました」
「分かった。我々も直ちにそちらに向かう」
連絡を受けたマッケイは、携帯をしまうと席を立ち上がり、マリアを見つめる。
「……いくぞ」
マッケイはマリアを従え、ティベリアス・カンパニーを後にすると、オールドブロードstに停めてあるワインカラーのメトロに乗り込んだ。
スターターを回しながら、横目でマリアを見つめる。その顔は、いつもの冷酷な無表情に戻っていた。
彼は、満足気にひとり頷くとメトロを発進させた。
藤田は夢を見ていた。
1,999年のインドネシア領、東ティモール。独立を熱望するティモール人達。だが、時のインドネシア大統領スハルトは、それを許さず武力で抑え込もうとする。
残虐の限りを尽くす軍隊。その殺された数は20万とも30万とも言われている。
そんな紛争地に降り立った藤田。それは想像以上の光景を目のあたりにする。
広範囲に焼けただれ、あちこちから煙が登っている。
家々は黒く炭化し、周りの木々は黒い幹や枝だけで葉は無くなっている。野原の草花もすべて無くなっていた。その周辺には、赤黒く変色した死体が累々と続いている。
その死体のどれもが、目を剥き、口を大きく開いて舌を出し、喉を掻きむしるような格好で焼け死んでいた。
異様な光景をカメラに収めさがら、藤田はある事を思っていた。
(…奴ら、スーパーナパームを使ったのか…)
それはアメリカの新型兵器だった。
ベトナム戦争時、ジャングルの樹木を除去するために、アメリカはナパーム弾を開発した。
ミサイルに燃料を詰め、上空数百メートルから散布、気化させてから引火させ、広範囲の樹木を焼き尽くす。
この兵器は、燃焼する時に広範囲の酸素を一瞬にして奪い去る。